[O9-6] 音楽聴取が腹腔鏡下胆嚢摘出術術後患者にもたらす睡眠への効果
【目的】術後患者は手術侵襲によってせん妄を誘発することが知られている.せん妄は患者の予後を増悪させ,集中治療室退室後も続く認知機能障害に関連があり,せん妄予防に対する看護介入が重要である.せん妄の誘発因子には不眠があり術後患者では51%にのぼると報告がある.また,ベンゾジアゼピン系を中心とする睡眠薬自体がせん妄を誘発することも知られている.A病院では,術後患者の不眠に対して睡眠薬を与薬するが効果が得られず,睡眠の確保に難渋している.先行研究では,非薬物療法として足浴やアロマテラピー,音楽聴取を用いた看護介入の効果が多数報告されている.そのなかでも我々は,簡易かつ一定の質で施行できる音楽療法に着目した.しかし,集中治療室に入室した術後患者に就寝前の音楽聴取と,睡眠薬使用の有無を客観的に比較検討した文献は存在しなかった.そこで,本研究はA病院High Care Unit(以後HCU)での睡眠薬使用の有無と終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography以後PSG)を指標として音楽聴取の効果を検討した.【方法】対象は2016年9月から2017年1月に,A病院のHCUに入室した腹腔鏡下胆嚢摘出術後で,創部痛はNumerical Rating Scaleが3以下,かつ音楽が35 dBの音量で聴取できる患者とした.除外対象は,自己調節鎮痛法の使用や研究の中断,認知症または精神疾患の既往がある患者とした.音楽は,対象者の両耳にイヤホンを装着し,手術後当日の21時から22時まで実施した.PSGは睡眠評価装置(AlicePDX®,PHILIPS社)を使用し,21時から翌朝6時まで測定した.睡眠薬の使用の有無,年齢,性別の情報はカルテから収集した.年齢,睡眠変数は平均値±標準偏差で示した.本研究はA病院倫理審査員会の承認を受け実施した.全研究対象者に研究目的や方法,研究結果の公表,協力,協力の撤回は自由意志であること,協力が得られなくても不利益を受けないことについて口頭および説明文書を用いて説明を行い,書面による承諾を得た.個人情報の取り扱いは,個人情報保護法に準じ厳守した.本研究に関連し,開示すべき利益相反関係にある企業や団体はなし.【結果】腹腔鏡下胆嚢摘出術を受けHCUに入室した対象は10名.男性4名女性6名 ,平均年齢は59±13歳であった.睡眠薬の使用人数は0名であった.PSGでは睡眠段階1+2は87.3±9.9%,睡眠段階3+4は1.7±4.8%,REM睡眠は10.8±6.5%であった.睡眠潜時は32.1±14.1分,覚醒反応指数は46.1±23.7回/時間であった.【考察】音楽聴取を実施した対象者は睡眠薬を使用しなかった.健常成人と比較し,PSGでは浅眠で分断化を認めたが,睡眠潜時は短縮していた.先行研究では音楽聴取は交感神経の過緊張を緩和し,ストレス反応も低下することが報告されているが,今回の研究対象者からは「何回か,目は覚めたけど,寝付きには困らなかった」などの回答が得られた.これらのことから,音楽聴取による弛緩効果 により,睡眠導入 への効果が認められ,睡眠薬の使用減少に繋がったことが示唆された.今回の研究結果は手術侵襲を受ける患者すべてに適応できるかは明らかではない.対象を腹腔鏡下胆嚢摘出術後患者に限定したからである.そのため,今後の研究によって音楽聴取が,あらゆる侵襲下の患者の睡眠導入に対して効果を認められれば,せん妄予防の一助となり,予後の改善や認知機能障害の予防に繋がることが期待できる.【結論】音楽聴取が睡眠導入の一助となる可能性が示唆された.