第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(示説)

一般演題(示説) P1群
その他

2018年6月30日(土) 14:40 〜 15:25 ポスター会場 (1階 展示ホール)

座長:桑村 直樹(公益社団法人日本看護協会 看護研修学校)

[P1-2] 終末期医療の移行に関わる看護師の役割 ~術後合併症患者の事例から~

古知 里美 (地方独立行政法人静岡県立病院機構静岡県立総合病院)

【目的】 根治目的の手術後に合併症で長期療養となった患者の終末期医療の移行に関して、職種により患者にとっての最善の考えが異なる中で、看護師の役割について考える。【方法】1.事例紹介 A氏50代男性。既往歴は強皮症、間質性肺炎。左肺上葉肺腺癌で胸腔鏡下舌区部分切除術施行。その後、気胸と難治性肺瘻を併発。術後1か月後に呼吸不全の悪化で人工呼吸器装着し集中治療加療となった。4ヶ月間癒着術や気管支充鎮術施行したが閉鎖せず。徐々に呼吸不全と強皮症が進行、腸粘膜障害によりるいそうも著名となり、術後7カ月後に死亡退院となった。2.倫理的配慮患者個人が特定されないようにデータはすべて記号化しプライバシー、匿名性、気密性を厳守した。また本件に関して利益相反はない。【結果】 手術直後の本人と家族の希望は回復して家に帰る事だったが、集中治療を開始し2カ月ほど経過すると、現状のまま家に帰りたいという気持ちに変わっていった。看護師は肺瘻が閉鎖しないこと、強皮症の悪化から全身の衰弱が進行していることから、A氏は終末期の段階なのではないかと考えた。苦痛緩和を行い、呼吸器や中心静脈栄養の指導を行えば在宅療養が可能になるのではないかと考え、患者の意向に添いたいと医師との話し合いを重ねたが、医師の方針は現行治療を継続することだった。それは根治術後であること、終末期医療の移行は治療を諦めることになり、それにより患者の闘病意欲が低下すると考えたためだった。そこで医療チーム全体で方針の共有が必要と考え、医師・看護師・PT・NST・RSTでの多職種カンファレンスを開催した。看護師は自宅に帰りたいという思いや家族のこれ以上辛い思いをさせたくないという思いを代弁し、PTはリハビリ時の疼痛が強いため戸惑いを感じ、NST・RSTからは現状以上の改善は難しいという意見だった。医師からもA氏は今後治療を継続しても病状の進行を止めることが難しいと判断され、参加者は終末期であると共通理解をした。その結果、日常生活で生じる苦痛軽減のため持続オピオイドを開始し、リハビリは本人の気分に合わせて施行、呼吸器は呼吸困難感が無いように設定を調整した。A氏はその後も自宅へ帰りたいと訴え、家族も可能ならその希望に沿いたいと発言はあったが調整が進まず、在宅療養はかなうことなく徐々に昏睡となり死亡退院となった。【考察】 今回看護師は患者の意向と現状の方針に違いを感じ、話し合いの中で医師に理解して貰えないというジレンマを抱いた。終末期医療に関して高田らは「医師は自分がこの判断に関して責任を持つ者であると認識しており、それゆえに慎重になることが必要だと考えていた」と述べている。根治術を目的とし患者と関係を築いてきた医師にとって、終末期医療への移行とその説明は心理的負担が大きい。一方で柳沢らは「治療を目指す医師とは違い、看護師は最後までその人らしくあることを願う」と述べている。そのため、看護師の方が終末期医療の移行を早期に必要と感じ、ジレンマを抱きやすい。この患者の場合は多職種カンファレンスを開催することにより、在宅療養はかなわなかったが、苦痛緩和を主とする終末期医療へ移行することができた。ベッドサイドで多くの時間を過ごす看護師は、患者に最も寄り添える職種であり、代弁者となる立場である。しかし代弁者となるだけでなく、多職種間の調整役となることが多い。それぞれの職種が患者への思いや患者にとっての最善の考えがあるため、チームで同じ方針を共有できるようお互いを尊重しカンファレンスを重ねていく必要があると考える。