第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

パネルディスカッション4
未来は特定行為にどんな一歩を踏み出して欲しいと思っているのか?~特定行為がもたらすクリティカルケアの質向上と安全性~

2018年7月1日(日) 14:50 〜 16:30 第7会場 (2階 蓬莱)

座長:塚原 大輔(公益社団法人日本看護協会看護研修学校), 座長:戎 初代(東京ベイ・浦安市川医療センター)

[PD4-5] 特定行為研修を提供することで見えてきた研修の目的地と課題

青柳 智和 (水戸済生会総合病院 臨床研修センター 看護師特定行為準備室)

 近森会近森病院(高知県)において看護師特定行為研修に関わり、現在は水戸済生会総合病院(茨城県)で指定研修期間の申請を行っている。自らの看護師特定行為(以下、特定行為)の実践と教育の経験から一定の知見を得たためここに報告するとともに、広く多様な意見を頂きたい。
 まず、自らが特定行為を実践するに当たり、特定行為の持つ主体性に気付いた。看護師は医師の指示により医療行為を行うが、直接指示はその指示の妥当性を考慮せずとも、「発熱時に解熱薬」と言ったように能動的に作業ができる。一方で特定行為は手順書に記載されている状況に一致しているかの確認が常に求められるため主体性が磨かれる。特定行為を実施しようとすると輸液ひとつを行うにも「難しく、怖い」という感情が常にあった。しかし、手順書に準じていることを確認することができればそれはタイムリーであり、セーフティーであった。つまり、特定行為は看護師に主体性を持たせることのできる方策であり、医療安全に直結している。
 次に研修の難しさである。看護師は「診断」は行わないが、常に「判断」は求められる。例えば発熱時、その熱の原因はなにか判断しなければならず、その判断には医師と同等の思考過程が求められる。つまり指示通りに作業を行うのではなく、状況判断(臨床推論)を行うための「情報収集能力」とその情報の「分析能力」を習得せねばならず、これらの習得は短期間では難しい。臨床推論は特定行為の如何に関わらず求められるが、特定行為研修における共通科目は幅が広く、区分別科目は奥が深い。研修開始前から幅広い知識とある程度の専門性を持ち、医療と看護を強く意識した実践経験を有していることが安全な特定行為を提供できる看護師としての第一歩を踏み出す鍵となるであろう。
 最後に自身の特定行為を提供した経験と教育した経験から、研修の目的は「医療安全」であると考え、特定行為研修の方策はその目的を十分に果たせると感じる。一方で医療は日進月歩で深化し、より複雑性が増している。医療を必要とする人に最良の医療を提供するために、「医師には医師にしかできないこと」に注力できる環境を整える必要がある。チーム医療という言葉が浸透し、人口減少時代の中で働き方改革が多くの分野で検討されている中、特定行為は、医療安全の確保、医師不足と偏在、医療の複雑高度化と言った現代医療の抱える難問の解決への糸口となる可能性を秘めている。個人的には「急変予兆の早期発見と早期対応」に主眼を置いているが、安全な特定行為の実践への課題としては、「アセスメント能力の向上」が必須と考えている。そのためには受講開始時にある程度の知識と経験を有している必要があり、「受講開始時に習得していることが望ましい知識」を提示することで卒後特定行為を意識した働き方ができ、結果安全で高品質な医療の提供につながると考えている。