第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

シンポジウム

シンポジウム5
大規模災害時におけるクリティカルケア部門の管理体制

2018年7月1日(日) 14:50 〜 16:30 第1会場 (5階 大ホール)

座長:佐々木 吉子(東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科), 座長:寺師 榮(東洋医療専門学校 救急救命士科)

[S5-4] 災害拠点病院のICU病棟における看護師の役割

中村 香代 (独立行政法人国立病院機構 災害医療センター 9階ICU病棟)

大規模災害時における多数傷病者発生時、災害拠点病院では、最大数の傷病者と共に重症者を収容する役割を担うことになる。災害が発生した直後には、病院機能の維持継続が可能かどうかをいち早く評価し、BCPを作動させる。通常モードから、災害対応モードに切り替えてスムーズに多数傷病者を受け入れることを可能とするためには、平時からの備えが重要であることはいうまでもない。災害対策は、その時何が起こるのかについて過去の経験や報告からどれだけのことを想定して対応の準備をしておくことができるか、ということに鍵があると考えられ、クリティカルケアの実践と類似している。
災害拠点病院は平時には通常の病院機能を稼働して24時間、地域の医療を担っている。当院においても、救命救急センターを保有し高度急性期医療を担う役割を果たしておりICUは、ほぼ毎日が満床である。備えのために、災害訓練を実施することは重要であると認識しつつも、入院患者に影響を与えることなく実動訓練をすることは大変困難であり、回数、スケールともになかなか拡大することができないというジレンマを抱えている。災害はこのような日常に、ある日突然やってくるということであり、訓練でさえも混乱する状況を目の当たりにするたびに、焦る気持ちでマニュアルの改訂を繰り返している。
当院では災害拠点病院として多数傷病者を受け入れるために、災害発生直後から赤、黄、緑、臨時ICUといったエリアを新規に立ち上げ、各部署から新設エリアに人員を配置させて傷病者の対応にあたる。新設部門で重症者の対応をするためには、日常的にクリティカルケア実践を行っているICUの看護師の配置が求められるため、ICU内に最小限のスタッフを残して新設部門へ出向くことになる。しかし、災害発生前から在室しているICU患者の管理に加え、重症な被災患者を受け入れるための空床確保のための調整、さらに新設部門で最低限の処置をしただけの状態で受け入れなければならない不安定な状態の重症傷病者の管理など、日常以上の実践力を要求される状況となることを忘れてはならない。ICUが円滑に重症者の受け入れを行い、できるだけ早くかつ適切に状態の安定化をはかり、急変の可能性ができるだけ低い状態で後方病棟へ患者を送り出すという機能を果たすことで、多数傷病者受け入れ病院としての歯車を効率的に回すことができるのだと考えられる。
限られた人、限られた場所、限られたもの、限られた時間の中にあって、限界を拡げるべく努力するための備えに取り組むには、できる限り「そのとき」の状態を想定内の事態として迎えられるよう、あらゆる可能性について検討をしておくことが重要なのではないか。そして、想定外の事態への対応を可能にするのは、日常的に80%の力で120%の成果を追究するような「余力のある最大の実践」の訓練なのではないかと考える。