第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

ワークショップ

ワークショップ2
重症患者のイニシャルケアからエンドオブライフへの視座

2018年7月1日(日) 10:15 〜 12:15 第3会場 (2階 桃源)

座長:田村 葉子(京都看護大学), 座長:田山 聡子(慶應義塾大学病院)

[W2-3] VAD・ECMO装着患者へのエンドオブライフケアの実践と多職種の相互連携

細萱 順一, 小池 祥子, 森 洋子 (地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 特定集中治療室)

当院は、補助人工心臓(ventricular assist device:以下VAD)の施設認定をうけ、重症心不全患者のbridge to transplantationの役割を担っている。先進国では高齢化に伴い心不全が最大の医療上の問題になっており、本邦の心不全患者も急速に増加している。欧米では治療抵抗性の心不全において心移植や人工心臓は標準的治療になっており、植込型VADを治療の最終ゴールとするデスティネーションセラピー(destination therapy:DT)も主流になってきている。日本も近い将来にDT導入という流れもあり、「どのように人生の終焉を迎えたいか」や「医療者はどのようにエンドオブライフ(EOL)ケアを提供すればよいのか」という課題に直面することになると予測される。
今後の心不全患者のEOLケアを考える上で、実際に経験した事例におけるイニシャルケアを報告する。事例は、20代Aさん。劇症型心筋炎にて他院から転院後に体外式VADを装着し、肺機能低下のため膜型人工肺(ECMO)も導入した。長期的な呼吸器管理のため気管切開を行うも、意識は清明で容易に口の動きや筆談でコミュニケーションがとれ、食事も経管栄養を併用しながら経口摂取できていた。リハビリテーションではPT・ME・看護師で端座位を行い、リラクゼーションのための足浴なども取り入れた。ご家族は毎日来られ、Aさんの好きなディズニーのDVDをレンタルいただき、気分転換の大事なツールと活用させて頂いた。VAD・ECMOの回路交換を繰り返しながら管理を続けていたが、約3カ月後から徐々に全身状態の悪化を伴い、補助循環の交換を行わないことに関して、ご両親と医療者での合意形成が図られた。その時点で、意思決定能力のあるAさんに現状と積極的治療からの撤退に関して説明すべきかという点について、医療者間でのconflict(対立)を認めためカンファレンスを行った。また、数ヵ月間の加療の中でAさんは様々な苦悩を表現され、看護師は直面してきた。時にはAさんと一緒に涙を流したり、リハビリ場面では一緒に喜びを分かち合った。そのような苦悩を表現するAさんに対して、思いを傾聴し、沈黙を共有し、その場に「共にいる」ことを意識した。これは、ELNEC-Jクリティカルケアカリキュラムのコミュニケーションで学習するスキルであり、その方略をCNSとしてスタッフと実践し、効果的な実践を提供しているスタッフを承認する関わりを意識した。今回、そのような実践をしてくれたスタッフの苦悩も皆様と共有したい。Aさんが亡くなった後には緩和ケアチームの協力のもと多職種によるデスカンファレンスを行い、様々な苦悩を表出する機会を設けた。それぞれの苦悩を共有し、緩和ケアチームや他職種からの支持的意見を受けることで、実践内容の肯定的受容につなげる機会となった。
今回の事例におけるイニシャルケアを通して、皆様が臨床においてEOLケアを実践する中で困難に感じることや具体的な実践内容を共有したい。