第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

[O10] 早期リハビリテーション

2019年6月16日(日) 14:30 〜 15:30 第5会場 (B2F リハーサル室)

座長:山口 典子(長崎大学病院)

14:30 〜 14:40

[O10-1] 術前のフレイルが術後の患者の歩行能力に与える影響の実態と歩行に影響を及ぼす要因

○鵜飼 莉奈2、片岡 茉里奈5、杉脇 絢4、中司 達也3、井上 正隆1 (1. 高知県立大学看護学部、2. 松江赤十字病院、3. 国立循環器病研究センター、4. 川崎医科大学総合医療センター、5. 日本医科大学付属病院)

キーワード:フレイル、歩行、リハビリテーション

【目的】
術前のフレイルの要素が術後の生活にどのような影響を及ぼすか明らかにし、生活面での予後を予測する示唆を得る。
【方法】
平成29年9月~10月の期間にA病院で消化器外科手術を行う60歳以上の手術を受ける患者を包含基準とした。除外基準を車いすや寝たきりで生活している者、認知機能が低下している者、術前に化学療法を実施している者とした。
退院前日に質問紙の配布・回収と握力測定を左右1回ずつ行った。並行しカルテから、握力、運動器に関する既往歴、IADL、栄養、気分、認知、手術への捉え、年齢、薬剤、手術、意欲、居住状況をデータ収集し、フレイルの要素として挙げた。また、退院後1週間となる日に、現在の運動状況を問う質問紙に回答し、付属の封筒で郵送してもらった。
分析方法は、術後の患者の歩行能力に影響を及ぼす術前のフレイルの因子は何かと、その因子に関連性の強い要素は何かの2つを明らかにするため、Mann-WhitneyのU検定、Wilcoxonの符号付き順位検定、相関分析、カイ2乗検定を行った。研究実施に際しては、データ収集前に研究の目的と方法等を説明し、同意を得た。データは、すべて匿名化して分析を行った。また本研究は、高知県立大学看護研究研究倫理審査委員会および協力施設の承認を得て行った。
【結果および考察】
17名の研究協力者を得て分析を行った。まず、術後の患者の歩行能力に影響を及ぼす術前のフレイルの要素は何かを明らかにするために、入院中の歩行能力に着目し分析を行った。入院中の歩行能力の指標である、病棟歩行可能周数(制限群、非制限群)と離床開始日から術前と同じ歩行形態で歩けるようになるまでの日数(平均以下群、平均超過群)をそれぞれ2群に分け分析を行った。結果、栄養状態、入院前の運動頻度、活動への意欲と有意な差がみられた。このことから、周手術期を通しての予後に関連するフレイルの要素であることが示唆された。一方で、薬剤、握力、運動器の既往歴、居住状況、認知、手術への捉えと有意な差がみられず、周手術期を通しての予後に関連するフレイルの要素ではないことが明らかとなった。
次に、退院後の歩行能力に視点を移し、分析を行った。退院後の歩行能力の指標として、退院後1週間の1日の運動時間(低活動群、高活動群)を2群に分け、分析を行った。結果、退院前日の握力と有意な差がみられ、退院後1週間の予後に関連するフレイルの要素であることが示唆された。一方で、薬剤、手術侵襲、運動器の既往歴、入院前のADL・IADL、栄養、居住状況、認知、気分・意欲、手術への捉えと有意な差がみられなかったことから、退院後1週間の予後に関連するフレイルの要素ではないことが明らかとなった。
さらに、上記の因子に関連性の強い要素は何かを明らかにするために相関分析を行った。結果、退院後1週間の1日の運動時間と術前のALB値、TP値は、病棟歩行可能周数と正の相関関係がみられた。
これらの結果から、退院後1週間の1日の運動時間は、入院中の歩行距離に影響を受け、入院中の歩行距離は、術前のタンパク質に関する栄養状態の影響を受けていたと言える。
【結論】
退院後1週間の予後を予測する指標として握力が有用であるが、併せて術前のALB・TP値も含めることことで、退院までに術前の歩行能力に近づけることができたかどうかを評価することが可能であると示唆された。