第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

[O10] 早期リハビリテーション

2019年6月16日(日) 14:30 〜 15:30 第5会場 (B2F リハーサル室)

座長:山口 典子(長崎大学病院)

15:10 〜 15:20

[O10-5] 深部静脈血栓症の理学的予防法における足関節底背屈他動運動が下肢血行動態及び安楽に及ぼす影響

○青木 麻耶1、山勢 博彰2、田戸 朝美2、向江 剛1、山本 小奈実2、佐伯 京子2 (1. 山口大学医学部附属病院、2. 山口大学大学院医学系研究科)

キーワード:深部静脈血栓症、理学的予防法、下肢血行動態、安楽

【目的】
 DVTの理学的予防法のうち、血流改善効果が高い足関節底背屈他動運動を取り入れたケアが、下肢血行動態、及び安楽に与える影響を明らかにすること。
【方法】
 研究デザイン:単純ランダム割り付けクロスオーバーデザイン。
 対象者:20歳以上40歳未満の健常女性16名。
 実験期間:平成29年12月から平成30年9月。
 実験操作:IPC(間欠的空気圧迫法)を75分間装着する群(IPC群)、IPCを15分間装着し除去後30分に1分間足関節底背屈他動運動の介入を行う群(足関節運動群)、IPCを15分間装着し除去後IPCの再装着、及び足関節底背屈他動運動の介入を行わない群(対照群)の3群とした。
 評価項目:下肢血行動態(大腿静脈最高血流速度、下肢組織酸素代謝指標)、凝固線溶反応(FMC、TAT、PIC、D-dimer)、自律神経活動(HF、LF/HF)、主観的感覚(圧迫感、拘束感、足が重い、足が蒸れる、足が暑い、についてVASを測定)とした。
 分析方法:下肢血行動態、凝固線溶反応、自律神経活動は、対応のある反復測定による2要因分散分析を行った。主観的感覚は、対応のある1要因分散分析を行った。
【倫理的配慮】
 研究代表者の所属する倫理審査委員会の承認を得た。対象者に対し文書で説明を行い、同意を得た。
【結果】
 下肢血行動態、凝固線溶反応、自律神経活動は12例を分析対象とし、主観的感覚は16例を分析対象とした。大腿静脈最高血流速度は、足関節運動群は、開始後45分以降低下したことから、足関節底背屈他動運動を行ったことにより大腿静脈最高血流速度の低下が示された。下肢組織酸素代謝指標である、ΔHHb、ΔO₂Hb、ΔcHbは、IPC群が3群中最も低い値で推移し、対照群が最も高い値で推移した。足関節運動群は、開始後45分以降、ΔHHbは低下したことから、足関節底背屈他動運動を行ったことによりΔHHbの低下が示された。凝固線溶反応のうち、FMCとTATは、IPC群と足関節運動群は開始前と比較して終了後に低下し、PICは3群とも開始前と終了後の値は横ばいであったことから、介入の違いによるFMC、TAT、PICの推移に変化は示されなかった。D-dimerは、足関節運動群で開始前と比較して終了後に低下したことから、足関節底背屈他動運動の介入によりD-dimerの低下が示された。自律神経活動のうち、HFは、IPC群は15分以降、他2群と比較して低い値で推移したことから、IPC装着を継続したことによりHFの低下が示された。主観的感覚のVAS値は、5項目すべて、及び主観的感覚5項目の合計値において、IPC群が3群中最も高い値であったことから、75分間IPCを装着したことにより主観的感覚のVAS値が高くなることが示された。
【考察】
 足関節運動群の大腿静脈最高血流速度が開始後45分以降低下したことは、足関節底背屈他動運動により下腿に貯留した血液が駆出されたことで血液量が低下した結果であると考える。ΔHHbの推移から足関節底背屈他動運動は、下肢静脈うっ滞を改善させることが示唆された。足関節運動群は凝固能が亢進しなかったことから、DVTの理学的予防法として安全に取り入れることが出来る介入であると考える。また、IPC群は副交感神経活動の低下と主観的感覚のVAS値が高値であったことから、IPCの継続使用は不快感が強いことが示唆された。これらのことから、足関節運動群は、下肢静脈うっ滞の増悪、及び凝固能の亢進を生じず、IPCを継続使用した場合に生じる不快の感覚を軽減させる看護介入であることが示唆された。