The 15th Annual Meeting of Japan Academy of Critical Care Nursing

Presentation information

Oral presentation

[O2] 精神ケア・家族ケア

Sat. Jun 15, 2019 2:20 PM - 3:30 PM 第3会場 (3F 小会議室31)

座長:藤本 理恵(山口大学医学部附属病院)

2:50 PM - 3:00 PM

[O2-4] O2-4

○井野 朋美1 (1. 熊本赤十字病院集中治療病棟)

Keywords:希望、体外式補助人工心臓

【はじめに】
 本研究は巨細胞性心筋炎の診断で体外式補助人工心臓を装着し、約100日間をICUで過ごした患者の“希望”とその看護に焦点を当て事例を振り返った。
【目的】体外式補助人工心臓装着となった70歳代女性の“希望”とその看護に焦点を当て内容を明らかにする。
【用語の定義】“希望”とはその人にとってより良い状態を期待し、その状態が実現することを望むこと。
【方法】
 研究デザイン:質的記述的研究デザイン、事例研究
 対象:巨細胞性心筋炎の診断で体外式補助人工心臓装着となった70歳代女性、A氏。
 ICU入室期間:2017年X月Y日〜(103日間)
 研究期間:2018年5月〜11月
 データ収集および分析:データ収集は診療録を振り返り、A氏の“希望”と考えられる箇所およびその看護と思われる記録を抽出し記載した。また、データの整理は、事例研究で使用できるワークシート(山本研究室HP:許可取得)を用いて整理した。分析は、整理されたデータを繰り返し見直し、“希望”およびその看護と考えられる箇所を注視し、実存主義を基礎としたトラベルビーの理論を採用し分析した。
【倫理的配慮】
 対象者に対する研究参加への同意は、A氏の長女に研究の主旨および個人情報の保護、データの取り扱い等に関して口頭で説明し書面にて同意を得た。また所属施設の看護研究倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】
 A氏がICUに入室していた期間をワークシートに基づき《前期》《中期》《後期》に分類し“希望”およびその看護に関するキーワード(内容を把握するための手がかりとなるような重要な言葉)を導き出した。《前期》はICU入室〜10日頃で全身状態の管理が中心であった時期である。この時期のA氏の希望は“生きたい”というものであり、看護師はA氏の【希望を見出す】および【希望をつなぐ】看護を実施していた。《中期》はICU入室11〜64日頃で全身状態が安定化し、自立に向けて医療を提供していた時期である。この時期のA氏の最大の希望は“孫に会いたい”というものであり、看護師はその希望の実現のために他職種と連携し【希望を支える】看護を実施していた。《後期》はICU入室65〜103日の死亡までの時期であり、A氏の状態が悪化していく時期である。この時期のA氏の希望は“休みたい”“安楽死させて”というものであり、看護師は【共感する】および【希望は支えきれない】という状況が見出された。
【考察】
 《前期》の“生きたい”は、意思の表出が困難な中においても家族からの問いかけに応え、未来をつなぐために発せられたものと考える。看護師はそのやりとりを見出し、それを希望としそれをつなぐために医師と協働しA氏が生命の危機を脱することができるよう看護を行っていた。《中期》は、本人の意思が明確になり、様々な希望の表出の中でも孫に会いたいということが最大の希望と考えられた。A氏はその希望が叶うことを強く信じ、支えとし、辛いリハビリにも耐えA氏自身が希望の実現を引き寄せたものと考える。看護師はA氏の希望実現のため、他職種と連携し希望を支え続け、孫との面会を実現させていた。《後期》は、A氏の身体的、精神的側面が不安定となり、苦悩していた時期と考える。この時期のA氏は希望を全く感じられない絶望に近い状態にあったのかもしれない。看護師は共感するまたは対応の困難さを感じ、希望を支えることができない状況に陥っていたと考えられた。患者が「希望をもちつづけ絶望をさけるように病人を援助するのが、専門実務看護婦の職務」であるならば、患者が考える生きる意味に目を向け、希望を見出し、看護介入を模索していく必要がある。