第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

[O8] その他

2019年6月16日(日) 10:20 〜 11:30 第5会場 (B2F リハーサル室)

座長:小島 朗(大原綜合病院)

10:20 〜 10:30

[O8-1] 急性大動脈解離による重症虚血から下肢に黒色壊死を来したが、フットケアが奏効した1例

○生田 尋美1、前 千登世1、太田 由佳2 (1. トヨタ記念病院 救命救急病棟、2. トヨタ記念病院 )

キーワード:創傷ケア

【目的】
 急性大動脈解離による腎動脈から下肢への血流量の低下、さらに術後大量の昇圧剤投与により、両側の足趾と踵部に黒色壊死を生じた若年症例に対し、皮膚の改善を目的に行った取り組みとその効果を検証する。
【対象患者】
 30歳代男性。仕事中に突然背部痛出現し、救急搬送。急性大動脈解StanfordA型の診断で大動脈弁・上行血管置換術後ICU入室。術後より多剤大量の昇圧剤を投与し循環を維持。発症3日目より両下肢冷感、両踵部にチアノーゼ出現。両足背動脈触知不可。発症6日目より右踵部の一部、左右足趾一部に壊死組織である黒色化出現。発症10日目昇圧剤終了後も循環維持。発症11日目両足趾の黒色化の拡大。両踵部にも黒色化とチアノーゼ拡大を認めた。
【倫理的配慮】所属施設の倫理委員会の承認を得た。
【方法と看護介入の実際】
 発症3目日の冷感、チアノーゼにはエアーパット特定加温装置システムを使用した保温方法を検討したが、末梢血管拡張による血圧低下を考慮し掛け物で両下肢を包み保温を実施した。循環動態が安定した発症11日目より血流改善効果を目的とし、炭酸浴によるフットケアを開始した。1日3回39~40度の湯に市販の入浴剤1/4個を投入し、炭酸浴を15分実施。その後、保湿クリームを塗布した。発症14日目からは炭酸浴と平行して離床を開始した。発症23日目、両足趾の黒色壊死部の拡大は止まり、古い角質が剥がれ再生された表皮がみられた。黒色壊死部分以外の足部全体が表皮化し皮膚色も淡紅色となった。発症27日目、立位がとれ歩行訓練を開始した頃、下肢の疼痛と倦怠感を訴え、悲観的な言葉が聞かれ、リハビリを拒否するようになった。そのため、発症30日目より目標共有のため医療者と患者・両親を含めたカンファレンスを定期的に開催した。カンファレンスでは、現状の病状と治療内容、リハビリの必要性と進行状況を共有した。立位時間が長くなると壊死した踵部に荷重がかかり疼痛を生じる事が判明し、疼痛軽減の方法を検討した。カンファレンスの内容を踏まえ短期目標を毎日歩行訓練に臨めるとし、具体策として①血流改善を目指し炭酸浴は毎日実施②歩行訓練を短時間でも毎日必ず行うとした。リハビリに対して消極的だった患者は、カンファレンスで医療チームが自分のためにサポートしてくれることに感激し、毎日歩行訓練に励むようになった。また、母も面会時には炭酸浴を実施しケア参加が得られた。
【結果】
 発症35日目、歩行器使用し8m歩行が可能となりICU退室。発症87日目、リハビリ病院へ転院。
【考察】
 炭酸浴で皮膚血流促進効果が得られるとの既報告から、炭酸浴を毎日実施し保温も行う事で皮膚の改善を認めた。また、端座位や立位時には下腿に貯留している血液が、胸腔に戻るため静脈還流量と心拍出量が増加する。その結果、圧受容体が刺激され、末梢血管が拡張するとある。炭酸浴だけでなく離床を同時に実施することで、皮膚変化を認めた。また、カンファレンスにより、課題や到達目標と成果を患者・家族と医療者が共有するこで患者の主体性に働きかけ回復意欲が向上し、皮膚改善への一因となったと考える。
 本症例におけるフットケアの介入時期について、血圧が安定し昇圧剤が不要となった時期を選定したことは、ケアの介入による全身状態の悪化を及ぼすことなく経過できたため妥当であったと考える。重症患者には、状態に合わせたケアを組み合わせて実施していくことが重要であるといえる。