10:40 〜 10:50
[O8-3] 無輸血治療を希望する患者に対するCCNSの調整と課題
キーワード:無輸血治療 、調整
【目的】
絶対的無輸血を希望する患者に対する術後ICUでの調整の限界から、院内システム改善への示唆を得たので報告する。
【方法】
1.介入を必要とした経緯
患者Xは、出血性ショック状態で救急搬送され、緊急手術を行う方針となった。しかし、手術についての説明を受けている際に、宗教上の理由から絶対的無輸血での手術を希望していた。一方で、麻酔科は、相対的無輸血の立場であったため撤退となった。そこで、院内マニュアルに基づき転院調整をしていたが困難であったという背景がある。その間も患者の容態は悪化しており、2時間に及ぶ説得ののち、患者は相対的無輸血を渋々受け入れて、当該科による自科麻酔で手術を受けることとなった。術中も、重症貧血状態ではあったが、無輸血で対応されていた。
CCNSは、これらの情報収集を行い、術後ICUで相対的無輸血の適応について調整の必要性を予測し、患者の受け入れ準備を行った。
2.調整の方向性
相対的無輸血の方針として、輸血実施の判断の指標を医療チームで議論し共有することができる。
【倫理的配慮】
個人が特定できないよう匿名性を確保した。さらに、超急性期において、宗教上の理由から輸血を拒否する状況の特殊性を考慮し、性別・診療科・病名・宗教名・国籍を伏せることとした。
【結果】
1.相対的無輸血に対するコンセンサス形成
ICU入室後、血圧・心拍数は維持されているものの、ヘモグロビン値2.0g/dl台まで貧血が進行していた。このため、当該科の医師チームに対し、相対的無輸血の具体的な判断指標の不明確さについて問題を提議し、ベッドサイドカンファレンスを開催した。しかし、「輸血はできない人だから」などと、それ以上聞かれても困るという雰囲気であった。“本当に危ない状態には輸血を実施する”と患者・家族に説明して手術に挑んでおり、術中・術後にどういう状況に至ったら輸血を実施する予定であったのか確認すると「CPAになってから?」「その時になってみないと判断できない」など、医師の間にもコンセンサスが得られていないまま手術に踏み切っていたことが明らかになった。そこで、赤血球輸血以外の血液製剤の使用について検討することで、アルブミン製剤を許容することが明らかになり、ショックの進行を回避することができた。
2.院内システムの限界の明確化
後日、多職種カンファレンスを開催したところ、以下の3点が輸血実施の指標を医療チームで共有する調整を失敗した原因であることが明らかになった。
①転院が困難であった場合に対する記載が院内マニュアル・宗教的輸血輸血拒否に関するガイドラインにないことによる判断の躊躇
②宗教関係者も家族と一緒にICU家族待合室へ案内されており、輸血施行した場合の宗教関係者への脅威による判断の躊躇
③輸血施行せずに患者が死亡した場合や、逆に輸血施行して患者が精神的な苦痛を負った場合、どちらにしても訴訟リスクを孕んでおり、一個人として訴えられることに対する強い脅威
【考察】
術後ICUでの調整を失敗した背景は、後日のカンファレンスで明らかになったため、以下の4点が院内システムの改善の方向性として必要であると考えた。
1.転院調整ができなかった場合の対応の院内マニュアルへの追加
2.病院の方針のホームページ公開
3.相対的無輸血の方針となった場合の輸血施行の判断指標に対する医療チーム内でのコンセンサス形成
4.医師にとっては脅威となる宗教関係者の術中の待機に対するコントロール
絶対的無輸血を希望する患者に対する術後ICUでの調整の限界から、院内システム改善への示唆を得たので報告する。
【方法】
1.介入を必要とした経緯
患者Xは、出血性ショック状態で救急搬送され、緊急手術を行う方針となった。しかし、手術についての説明を受けている際に、宗教上の理由から絶対的無輸血での手術を希望していた。一方で、麻酔科は、相対的無輸血の立場であったため撤退となった。そこで、院内マニュアルに基づき転院調整をしていたが困難であったという背景がある。その間も患者の容態は悪化しており、2時間に及ぶ説得ののち、患者は相対的無輸血を渋々受け入れて、当該科による自科麻酔で手術を受けることとなった。術中も、重症貧血状態ではあったが、無輸血で対応されていた。
CCNSは、これらの情報収集を行い、術後ICUで相対的無輸血の適応について調整の必要性を予測し、患者の受け入れ準備を行った。
2.調整の方向性
相対的無輸血の方針として、輸血実施の判断の指標を医療チームで議論し共有することができる。
【倫理的配慮】
個人が特定できないよう匿名性を確保した。さらに、超急性期において、宗教上の理由から輸血を拒否する状況の特殊性を考慮し、性別・診療科・病名・宗教名・国籍を伏せることとした。
【結果】
1.相対的無輸血に対するコンセンサス形成
ICU入室後、血圧・心拍数は維持されているものの、ヘモグロビン値2.0g/dl台まで貧血が進行していた。このため、当該科の医師チームに対し、相対的無輸血の具体的な判断指標の不明確さについて問題を提議し、ベッドサイドカンファレンスを開催した。しかし、「輸血はできない人だから」などと、それ以上聞かれても困るという雰囲気であった。“本当に危ない状態には輸血を実施する”と患者・家族に説明して手術に挑んでおり、術中・術後にどういう状況に至ったら輸血を実施する予定であったのか確認すると「CPAになってから?」「その時になってみないと判断できない」など、医師の間にもコンセンサスが得られていないまま手術に踏み切っていたことが明らかになった。そこで、赤血球輸血以外の血液製剤の使用について検討することで、アルブミン製剤を許容することが明らかになり、ショックの進行を回避することができた。
2.院内システムの限界の明確化
後日、多職種カンファレンスを開催したところ、以下の3点が輸血実施の指標を医療チームで共有する調整を失敗した原因であることが明らかになった。
①転院が困難であった場合に対する記載が院内マニュアル・宗教的輸血輸血拒否に関するガイドラインにないことによる判断の躊躇
②宗教関係者も家族と一緒にICU家族待合室へ案内されており、輸血施行した場合の宗教関係者への脅威による判断の躊躇
③輸血施行せずに患者が死亡した場合や、逆に輸血施行して患者が精神的な苦痛を負った場合、どちらにしても訴訟リスクを孕んでおり、一個人として訴えられることに対する強い脅威
【考察】
術後ICUでの調整を失敗した背景は、後日のカンファレンスで明らかになったため、以下の4点が院内システムの改善の方向性として必要であると考えた。
1.転院調整ができなかった場合の対応の院内マニュアルへの追加
2.病院の方針のホームページ公開
3.相対的無輸血の方針となった場合の輸血施行の判断指標に対する医療チーム内でのコンセンサス形成
4.医師にとっては脅威となる宗教関係者の術中の待機に対するコントロール