第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

[O9] 医療安全

2019年6月16日(日) 13:10 〜 14:20 第5会場 (B2F リハーサル室)

座長:平尾 明美(神戸大学医学部附属病院)

13:50 〜 14:00

[O9-5] 敗血症患者の予後は呼吸数異常発現からICU入室までの時間と関連する

○春名 純平1、犬童 隆太1、西 裕子1 (1. 札幌医科大学附属病院 ICU病棟)

キーワード:呼吸数、敗血症

【はじめに】
 敗血症では種々のバイタルサインの中でも呼吸数の異常が早期認識の項目として有用であることが示唆されており,ICU入室12時間前から重症化を示すバイタルサインの変化を認めるという報告もある.患者のバイタルサインを観察する看護師は最も患者の異常に気づくチャンスを有することから敗血症のスクリーニングのための観察の視点としてまずは呼吸数を測定することと,呼吸数の異常に対する適確な対応が重要である.そこで,本研究では,ICU入室12時間前という時間に着目し,呼吸数の異常発症からICU入室までの時間と予後との関連について検討することとした.
【目的】
 敗血症のためICUに緊急入室した患者に対する呼吸数異常発症からICU入室までの時間と予後との関連について検討する.
【方法】
 対象は,2011年4月から2017年10月に当院ICUに緊急入室した敗血症患者のうち,18歳未満の小児患者,ICUに入室する12時間前に当院入院していなかった患者、ICUに入室する12時間前までに呼吸数の記録がなかった症例および呼吸数が正常であった症例を除いた66例とした。呼吸数は22回/分以上の場合を異常とした.分析方法は,ICU入室12時間前までの呼吸数異常の最も古い時間からICU入室までの時間を用いて,度数分布から25パーセンタイルを算出(2時間30分)し,これを基準に早期ICU入室(early ICU admission: EIA) 群と晩期ICU入室 (Late ICU admission group: LIA)群の2群とした.この2群における年齢,性別,ICU入室時のSOFAscore・APACHEⅡscore、ventilator free days for 28 days(VFD),ICU在室日数,死亡イベントおよび生存日数についてMann–Whitney U testおよび×2乗検定を用いて比較検討した.また,生存日数は,Kaplan-Meier法を用い,両群の比較にはlog-rank検定を行った.全ての項目に関して,有意水準は5%とした.統計解析にはSPSS ver. 25を用いた.本研究は所属施設の倫理審査の承認を受けており,開示すべき利益相反はない.
【結果】
 対象患者は66例のうち,EIA群は16例,LIA群は50例であった.SOFA・APACHEⅡscore,VFD,ICU在室日数に両群で有意差はなかった.90日死亡率はLIA群で有意に高かった(P=0.04).さらに,Kaplan-Meier法による生存日数は有意にEIA群で長かった(P=0.04).
【考察】
 本研究では呼吸数をもとにした敗血症患者における早期ICU入室は、生命予後と関連していた。しかし,当院における過去の調査では、一般病棟からICUに緊急入室する前の呼吸数が記録されているのは、約4割に止まっているという現状があり,最も患者の異常を感知できる看護師には呼吸数測定の意義を理解していない場合も多いことが考えられた.幸い呼吸数を日常的に測定し、病棟での敗血症の早期認識や介入につなげるための方策としてqSOFAというツールの使用が提唱されている.さらに感染症を疑う患者の敗血症への進展を早期に覚知し対応するためにもRapid response system(RRS)の構築や有効活用できるような組織の体制などがあり,患者に関わる頻度の高い看護師がこれに参画することが期待される.
【結論】
 呼吸数をもとにした敗血症患者における早期介入は生命予後と関連していた.本検討の結果は敗血症患者において,生体反応として生じる各種バイタルサインの中で呼吸数の異常を早期に察知することが,敗血症を疑う患者の生命予後改善と関連するスクリーニング法の検討を行うための理論的な根拠の一つとなると考えられる.