第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(示説)

[P1] 心理・社会的ケア

2019年6月15日(土) 14:40 〜 15:30 第7会場 (B1F コンベンションホール)

座長:徳永 美和子(九州中央病院)

15:15 〜 15:22

[P1-6] 家族の支援で障害受容した耳鼻咽喉科術後患者への危機介入

○杉浦 陽子1 (1. 千葉徳洲会病院)

キーワード:顔貌の変化、家族の支援、障害受容

【目的】
 耳鼻咽喉科術後患者への危機介入による検討
【方法】
  対象: 1)氏名:M氏 2)年齢:40代 3)性別:女性 4)診断名:舌根部癌 5)術式1回目:右舌癌摘出・下顎区域切除・右ND・左外側大腿皮弁再建術 2回目:左大胸筋皮弁再建術 6)家族構成:独身・家族は姉家族
 方法:看護記録から、面会状況・言動・表情を調査し、M氏の変化と危機プロセス・看護を振り返る。本研究は当病院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
  術後1日目。M氏が涙を流して不安を筆談で訴え、看護師が傾聴する。面会時、姉が号泣する。私は、M氏と姉の面会の様子を見て、M氏にとって、姉との面会が本人の精神的回復に大きな影響をもたらすと考え、面会時間制限解除を提案し、プライベート空間の保持に努めた。姉は毎日必ず面会に訪れ、カーテンで仕切ったプライベート空間で、30分から90分間程度面会する。一般病棟転棟予定日に皮弁壊死部位出現し、M氏と姉へ皮弁壊死と有茎皮弁再手術のICあり。M氏は、再手術を受け止められず、姉の支援で再手術を決意するが、精神的に不安定となり、姉が面会時間外も付き添う。翌日、皮弁壊死する。M氏と姉は、再手術で歯を残すことを強く希望する。再手術当日、M氏の表情は暗い。術中、姉の承諾で、下歯全抜歯する。再手術1日目。M氏へ下歯全抜歯をICする。M氏の表情は浮かない。姉も落ち込んだ様子のため、M氏と姉、ふたりきりで過ごしていただく。翌日、M氏が「頑張ります。」と筆談する。その後、M氏の表情が明るくなり、前向きな発言や笑顔がみられ、ICUから病棟へ転棟する。
【考察】
 患者にとって、家族による支援の大きさは、家族間の関係性やつながりが関係する。そして、クリティカルな状況に置かれた患者と家族は、さまざまなストレスを抱えて、精神的危機状況となる。この危機状況によって心理的恒常性が損なわれるところから、その恒常性を取り戻し、適応へと至る心の過程を記述するものが、危機理論である。フィンクの危機モデルの受容段階には、①衝撃段階②防衛的退行段階③承認段階④適応段階がある。M氏は、術後の状態にショックを受け、衝撃段階となる。その後、皮弁壊死となり、再び大きなショックを受ける。私は、精神不安が増強する可能性があるとアセスメントし、不安を、患者の表情や言動で評価した。M氏は、毎日、姉とふたりで話をし、信頼する相手と心を開ける時間を持つことで、防御的退行から承認へと変化していった。そして、再手術2日目に「頑張ります。」という初めて前向きな発言が聞かれた。M氏は、絶え間ない家族の支援を受けることにより、承認、適応段階へと辿りつくことができたと思われる。危機は、適応への過程における一時的な心理防衛反応と言える。しかし、様々な要因から不適応反応が悪化する患者もあり、精神的危機状況への支援は非常に重要である。耳鼻咽喉科術後患者は、患者自身が自分を受け入れられずに苦しみ、自己の存在意義を否定的に捉えることがある。また、家族も患者と同じように大きなショックを受け、現実を受け止めきれず、苦しむ。だからこそ、患者と家族を分けて考えるのではなく、家族を丸ごとの単位として考え、看護を提供する必要がある。耳鼻咽喉科術後患者は、危機プロセスの各段階を乗り越えて、顔貌や機能的変化を受容しなければならない。私達看護師は、患者が術後の変化を受け入れ、変化した自己の価値を認め、その後の人生を前向きに考えるように援助しなければならない。