第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(示説)

[P3] 身体的ケア

2019年6月16日(日) 10:25 〜 11:05 第7会場 (B1F コンベンションホール)

座長:杉島 寛(久留米大学病院)

10:53 〜 11:00

[P3-5] 経管栄養剤に含まれる水様性食物繊維が下痢に与える影響

○宮田 俊一1 (1. 埼玉医科大学総合医療センター)

キーワード:経管栄養、プロ・プレバイオテックス、下痢

【はじめに】
 静脈経腸栄養ガイドラインでは、腸が機能している場合は、経腸栄養を選択することを推奨しており1)、生理的で、コスト面からも経静脈栄養より優れている。しかし、通常の経口摂取と異なり合併症も多く、特に消化器系合併症は、30〜38%と頻度が高い。その中で、下痢は最も多い合併症とされている。今回、重症患者に対し水溶性食物繊維が配合された経管栄養剤を使用し下痢の改善を認めた症例を経験したので報告する。
【倫理的配慮】
 口頭及び書面にて個人が特定されないように匿名化することまた、研究利用に拒否をした場合にも診療上の不利益を生じないことを説明し同意を得た。
【症例】
 70歳代女性 既往歴:甲状腺機能低下症(未指摘)、糖尿病、軽度知的障害、日常生活は可能 BMI:13.8
【経過・結果】
 自宅階段3段より転落し、翌日ケアマネが発見し救急要請した。C5 椎体・椎弓骨折に対し手術加療を行った。経管栄養剤は、3病日目に開始となった。術後、呼吸器離脱困難にて8病日目に気管切開術を行った。10病日目より、下痢(ブリストルスケール7)が認められた。15病日目には、発熱、白血球数の増加、痰の性状の変化が認められVAPと判断し抗菌薬治療開始となる。その間も下痢の改善はなく、整腸剤(ラックビーN)の開始及び一時的に腸管休息を行い下痢の改善を待った。19病日目に下痢の改善が認められ、消化態栄養であるペプチーノが開始となった。34病日目のNST介入時には、下痢が再度持続し、BMI13.1と低下を認められた。必要エネルギー量に対し過不足であり脂質投与不足も考慮し、MAR-2への変更、投与速度時間の調整を提案した。しかし、下痢(ブリストルスケール6から7へ)の改善は認められず、83病日目にアイソカルRTUへの変更及び投与速度のさらなる調整を行った。排便性状は変わらないものの排便回数の減少が認められた。96病日目から下痢(ブリストルスケール7から5へ)の改善も認め、排便回数も安定した。
【考察】
 経管栄養剤における下痢の合併症対策として、経管栄養剤の投与速度や浸透圧を調整する。また乳糖不耐症例に対しては、乳糖フリー製剤への変更や、吸収・消化障害を呈する場合は、成分栄養剤に変更する。今回、一症例であったが、外傷、手術、感染などの大きな侵襲による腸内細菌叢の破綻が下痢の要因と考えられた。アイソカルRTUの特徴として、体液と等張な浸透圧に加え水溶性食物繊維(グアーガム分解物)が含まれている。先に投与されていた整腸剤の単独投与のみでは、腸内細菌叢のバランスを整える作用が弱く、今回アイソカルRTUを加えた事で、水溶性食物繊維がプレバイオテックスとして働きプロバイオテックス(整腸剤)の餌となり整腸作用が強化した可能性が考えられた。
【結論】
 経管栄養剤における消化器系合併症(下痢)の対策の一つとして、腸内細菌叢に着目したプロ・プレバイオテックスを活用し、整腸剤の投与に加えて食物繊維を含有した経管栄養剤を併用することで下痢の改善につながる可能性がある。

引用文献
1)日本静脈経腸栄養学会編.静脈経腸栄養ガイドライン静脈経腸栄養を適正に実施するためのガイドライン第3版.照林社,東京,2013,p14-15.