The 15th Annual Meeting of Japan Academy of Critical Care Nursing

Presentation information

Oral presentation

[PS7] 長期的視点を持ち考える敗血症看護

Sun. Jun 16, 2019 1:10 PM - 2:10 PM 第3会場 (3F 小会議室31)

演者:五十嵐 竜太(新潟大学医歯学総合病院 集中治療部)

1:10 PM - 2:10 PM

[PS7] PS7

○五十嵐 竜太1 (1. 新潟大学医歯学総合病院 集中治療部)

Keywords:敗血症

 敗血症で、本邦でも年間10万人もの患者が命を落としていると推定されています。敗血症によって急激に死の経過をたどる方がいらっしゃる一方で、長期にわたる療養を強いられ、二次感染や多臓器障害で命を落とされる方も多くいらっしゃいます。敗血症の症状が、急性期だけではなく、長期に影響するという背景には、その病態が密接にかかわっています。
 敗血症の定義の歴史は、「感染症に伴う全身性炎症反応症候群(SIRS)」を敗血症としたSepsis-1(1992年)に遡ります。SIRSは過剰炎症を表す概念として非常に有名です。敗血症では病原体側・宿主側それぞれの因子の相互の反応によって、炎症が炎症を呼び、臓器障害が進行します。しかし、2016年に発表された敗血症の定義 Sepsis-3では、敗血症は「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされた状態」へと変更されました。感染症で臓器障害を有する患者のうち、SIRSが陰性であった患者が8人に1人いたことが報告されるなど、敗血症の病態はSIRSだけでは説明できないと考えられるようになってきました。
 敗血症を引き起こした患者は、体力低下が進行し、普段なら罹患しないような二次感染を引き起こすことを、我々はしばしば経験します。近年の研究で、敗血症による炎症は持続性で、かつ進行性の免疫抑制を伴い、異化亢進が長期化する病態であることがわかってきました。また、Post intensive care syndrome(集中治療後症候群)の概念も広く認知されるようになり、敗血症の集中治療を受けた後に、ICU-AWに代表される身体機能障害や、そのほかにも認知機能・メンタルヘルスの障害に長い間苛まれるといわれています。つまり、敗血症はダイナミックな炎症反応だけを重要視する時代から、これに加えて患者の長期予後やQOLを考え、クリティカルケア看護を具体化する、そんな時代に変化しているといえます。これは最近のクリティカルケア看護の方向性と合致する考え方です。
 私たちクリティカルケア看護に携わる者が患者と関わるのは、患者や家族の人生の中でほんの僅かな時間だけであることがほとんどです。しかし、その僅かな時間の中に、患者の命を、そしてこれからの生活を左右する、重要な治療やケアが含まれています。このセミナーでは、敗血症の病期を「急性期」「亜急性期」「回復期~慢性期」に分け、それぞれに必要なケアを、文献等を交えて考察します。例えば、急性期は、細胞外液による輸液やノルアドレナリンなどの使用によって循環を立て直し、生命を維持しようとする時期です。この時期には、私たち看護師は敗血症の早期認識と初期診療の補助、そして酸素需給バランスを意識した看護ケアなどが求められます。循環が安定化しつつある亜急性期には、急性期から亜急性期への転換を確認しつつ、せん妄への介入や早期リハビリテーションなど、生活者として視点を持ったケアが求められます。また、免疫抑制を考慮し、さらなる感染症を予防することも非常に重要です。回復期~慢性期へのケアは、実は急性期・亜急性期からの連続性のあるケアによって構成されることが多く、早期から患者の退院後を考えたケアが必要であると考えます。
 緊急を要するクリティカルな状況でも、長期的な視点を持つことで、私たちの実践を、患者の生活に根差したものへと少しずつ変えることができるのではないでしょうか?クリティカルケア看護の経験のある3-5年目のスタッフに焦点を当て、基礎的な知識に触れながら、できるだけ平易にかみ砕き説明いたします。