第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

特別講演

[SL1] コードブルーが伝えたかった救急医療

2019年6月15日(土) 10:40 〜 11:50 メイン会場 (B1F フィルハーモニアホール)

演者:原 義明(日本医科大学付属病院高度救命救急センター)
座長:菅原 美樹(札幌市立大学)

10:40 〜 11:50

[SL1] コードブルーが伝えたかった救急医療

○原 義明1 (1. 日本医科大学付属病院高度救命救急センター)

キーワード:コードブルー、救急医療

 バブルがはじけた1990年代後半に、当医局にフジテレビからリアリティのある救急医療ドラマを作成したいと言う依頼があり、松嶋菜々子、江口洋介主演の「救命病棟24時」に関わりました。私は2005年の3rdシーズンから医療指導を行い、以降ドラマの仕事に時々携わるようになり、数えてみたら40作品近くの協力をしていました。多忙な日常の気分転換と、きれいな女優さんと会えるミーハーな気持ちで始めましたが、携わっているスタッフや役者さんは少しでも良い作品をと極めて真面目に取り組んでいるのを目の当たりにすると、生半可な気持ちではいけないと襟を正して取り組むようになりました。

 当院がドクターヘリ事業に2001年から本格参入し、ようやく軌道に乗ってきた2007年、「救命病棟24時」のプロデューサーからドクターヘリを扱った医師群像のドラマ作成の監修&指導の依頼が来ました。中々普及しないドクターヘリ事業を広く宣伝できる良い機会だと考え、直ぐにOKを出しました。しかし本格的な医療ドラマの監修は思いのほか大変であり、くじけそうになることも多々ありました。医師がドラマに関わる仕事には大きく2つの仕事があります。1つは「監修」であり、もう1つは「指導」です。「監修」は地味で大変な作業です。プロデューサーや作家と何度も話し合いを行い、疾患設定を検討します。主人公の疾患設定などはドラマの根幹に関わるので慎重に扱います。専門外の疾患は、その専門家に意見を聞いたり関連学会に問い合わせをしてドラマの設定に上手く組み込んでいきます。ここで手を抜くと現実味のない荒唐無稽なストーリーになってしまいます。もちろんエンターテイメントですから、ある程度は誇張・妥協もあります。しかし、その疾患について誤解を招くことは避け、不愉快な思いをさせず疾患の現実を知ってもらい、皆に勇気や希望を与えられる楽しいドラマを提供するため、台本を何度も練り直し齟齬のないことを確認する作業に時間をかけます。

 もう1つの「指導」は撮影現場で役者さんの所作や目線、汗、血糊の付け方、患者の飾り付け、床の血、時には手先の代役などを行うもので、これはこれで結構大変です。撮影は一般に朝から夜中までかかってOAの約7-8分の撮影が出来ます。1時間のドラマではCMを除いて1話約48分の撮影を必要としますから、ほぼ1週間で1話が完成します。もちろん細かい修正や、音楽・効果音を入れ込む作業も必要ですし、ロケなどでは時間もかかります。連続ドラマなどではほぼ自転車操業が続き、撮影が朝までずれ込むことも多く、スタッフも我々も労働基準を完全に無視した過酷な現場となります。  

 「コード・ブルー」では、救急医のリアルな日常を再現するのみでは無く、「ドクターヘリとはなんぞや」を多くの視聴者に伝えることができました。ドクターヘリ事業がその後、急激に全国的に広がったことは、ドクターヘリの特別措置法成立(2007年)のみで無く、このドラマが大きく影響していると自負しています。そのため、誤った情報を送らないことにはとても神経を使い、制作者側からヘリの中で手術のような医療行為をさせたいとの要望があったこともありましたが断りました。このドラマが広く受け入れられたのは、役者さんのかっこよさ、かわいさのみだけでは無く私たちを含めたスタッフ達のこだわりを軽視せず取り入れてくれた制作者側の熱意の結果だと思っています。