第15回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY1] クリティカルケア領域のその人らしい最期を問う

2019年6月15日(土) 14:20 〜 15:30 メイン会場 (B1F フィルハーモニアホール)

座長:木下 佳子(NTT東日本関東病院)、杉野 由起子(九州看護福祉大学)

14:35 〜 14:50

[SY1-2] 救急・集中治療の終末期医療に関する課題とコミュニケーションの重要性

○安心院 康彦1、三宅 康史1、坂本 哲也1 (1. 帝京大学医学部救急医学講座)

キーワード:救急・集中治療、終末期医療、コミュニケーション

 平成26年に日本救急医学会、日本集中治療医学会、および日本循環器学会は、合同で救急・集中治療における終末期医療に関するガイドラインを発表した。このガイドラインは、救急・集中治療における終末期を定義し、医療スタッフが患者の意思に沿い、意思不明な場合は患者にとっての最善の選択、そしてその後の判断や対応を支援する筋道が示された。これらの判断や対応には、主治医を含む多職種医療チームの総意、終末期に対する患者や家族の理解、意思の変化への対応が重要とされ、施設倫理委員会での検討も含む。
 救急・集中治療における終末期の定義は、集中治療室等で治療中の急性重症患者に対し適切な治療を尽くしても救命の見込みがないと判断される時期とされ、不可逆的な全脳機能不全や現行以上の治療法がなく近いうちに死亡が予測されるなどが含まれる。終末期と判断した後、医療チームは、患者および家族や関係者(以下家族等)の理解を得て以下を判断する:(1)患者の意思決定能力あるいは事前指示がある場合はそれを尊重、(2)患者の推定意思のみで推定意思を尊重、(3)上記(1)、(2)とも不可なら家族総意の意思を確認。この後以下対応する:①積極的な対応を希望:患者の状態を伝え家族等の意思を再確認し、その後も継続して状況の理解を得る努力をする。②延命措置の中止を希望:延命措置の減量、終了の方法を選択する。③医療チームに判断を委ねる:患者にとって最善の対応を検討し、家族等と合意の形成をはかる。(4)本人の意思が不明で家族等と接触できない場合患者にとり最善の対応を判断する。すでに装着した生命維持装置や投与中の薬剤などへの対応として、現在の治療を①維持、②減量、③終了する、④これらを条件付きで選択、などがある。苦痛軽減等は継続し、筋弛緩薬投与等で死期を早めない。
 医療チームには、その専門性に基づき、医療倫理に関する知識や問題対応に関する方法の修得が求められる。かつ終末期の事実を告げられた家族等の心情を理解し、患者にとって最善となる意思決定ができ、患者がよりよい最期を迎えるように支援することが重要である。そのために医療チームは、家族等との良好な信頼関係を維持し、適宜情報提供を行い、また悲嘆への支援が必要となる。高度に専門化された救急・集中治療の場において、医師は専門的知識を用いて、主に客観的な医学的判断により対応を進める傾向にあるが、患者本人や家族等への支援においては、医療者側の一員として多職種により対応すること、患者、家族とはもちろんのこと、医療者間においても対等な立場での円滑なコミュニケーションにより、個々の意見や多様な考え方を共有することが重要であると考える。また、医療者は一般市民の考え方を理解した上で専門的知識を有していると考えがちだが、学生時代を通して専門的な知識を習得し職について経験を重ねる中で次第に一般市民の心情や考え方を失っている可能性がある。「その人らしい最期を問う」、つまり患者自身の人格を理解し、家族に寄り添い苦悩を共有するためには、治療内容や患者の状態について詳細な情報を提供する一方で、非医療従事者の心情や考え方を学ぼうとする謙虚な姿勢が問われているように思われる。