The 15th Annual Meeting of Japan Academy of Critical Care Nursing

Presentation information

Oral presentation

[SY4] クリティカルケアにおける倫理的ジレンマ

Sun. Jun 16, 2019 10:10 AM - 11:50 AM メイン会場 (B1F フィルハーモニアホール)

座長:明石 惠子(名古屋市立大学大学院看護学研究科)、岡田 彩子(日本赤十字看護大学)

10:10 AM - 10:25 AM

[SY4-1] SY4-1

○藤岡 智恵1、竹田 智子1 (1. 飯塚病院集中治療室)

Keywords:倫理的悩み、重症患者、クリティカルケア看護師

 近年、医療の進歩に伴って治療の選択肢が広がり、従来は救えなかった生命も救うことが出来るようになった。一方で、人々の人生観・死生観は多様化し、患者自身が治療を選択するという考えが広まっている。終末期医療のあり方や人工的な延命という人間の尊厳に関わる新たな問題は、治療選択の「自己決定」という側面で議論が行われるようになった。重症患者の終末期医療についても各学会でガイドラインが作成された。いずれも「本人の尊厳を追求し、自分らしく最後まで生きる」ことの重要性が軸となり、その人らしい生き方を支える倫理的なケアの実践が求められるようになっている。
 クリティカルケア領域では、生命の危機状態にある患者と家族への医療が実施される。そこで勤務する医師や看護師を含む医療スタッフは、生命の危機に直面した患者を目の前にし、「患者の命を救いたい」という一つの大きな目標に向かって治療に取り組む。しかし患者の病態の経過によっては、ある時期からスタッフそれぞれが治療に対する考え方に相違や疑問を感じるようになることがある。
 看護師が臨床で体験する倫理的問題とそれにより抱く思いには、倫理的な不確実さ(moral uncertainty)や倫理的ジレンマ(moral dilemma)がある。Jametonは、それらと共に看護師が体験する不快な感情や思いを倫理的悩み(moral distress)と定義した。その後Corleyらによって看護師の倫理的悩みを測定するスケールが開発された。これは後に職種を超えた「改訂倫理的悩み測定尺度(the Moral Distress Scale Revised:MDS- R)」として改訂され使用されている。MDS- Rを日本語に翻訳・検証されたものが、日本語改訂版倫理的悩み測定尺度(JMDS-R)である。
 実際に臨床の場でも、倫理的問題に関する悩みと思われる発言を耳にしたり、相談を受ける場合がある。最近ではその発言が増加しているように感じ、スタッフ自身がそれをどのように受け止めているのか、対処法はどうなのか、スタッフ自身の悩みとして残っているのではないかという問題を感じるようになった。その内容としては、大きく次のこの3項目に分類される倫理的悩みが存在するのではないかと予測した。
①患者の病態についてのジレンマ:多臓器不全や低酸素脳症などの不可逆的な病態に陥ったとしても、治療が継続され続ける症例も少なくない。医療者は患者の回復は望めない状態であることを感じたり、痛々しく変化していく容姿をみることに、患者・家族が望む医療を提供できているのかと葛藤する。② 患者・家族へ提供される、治療やケアについてのジレンマ:「なぜこの状況の患者に、この薬剤(生命維持装置)を投与し続けなくてはならないのか」「患者に優先されるべきケアであるのに、なぜ継続することが許されないのか」 ③医療チーム間のコンセンサスについてのジレンマ:患者・家族の思いに関する情報を共有できなかったり、多角的に議論することができないまま治療が続けられる。
 これらの積み重なりは次第にジレンマとしてのしかかり、バーンアウトや離職へとつながる恐れがある。ここでは日常の中で見聞したスタッフの言動や意見から、実際に看護師が感じている倫理的問題を考察し、今後の課題を考える。