第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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教育講演

[EL7] 医療政策の観点からクリティカルケア看護への提言

演者:太田 凡(京都府立医科大学大学院医学研究科)

[EL7] 医療政策の観点からクリティカルケア看護への提言

○太田 凡1 (1. 京都府立医科大学大学院医学研究科 救急・災害医療システム学 救急医療学教室)

Keywords:医療政策、救急医療需要、働き方改革

 わが国では、昭和38年に各自治体消防による救急業務が義務化された後から「救急車たらい回し」が社会問題となり、翌年には国会で議論されている。そうした背景から昭和39年に救急医療機関告示制度が発足し、昭和52年には初期・二次・三次の救急医療機関分類体制が導入され、翌年には初の三次救急医療機関として日本医科大学救命救急センターが設立された。平成9年に厚生省(当時)において作成された救急医療基本問題検討会報告書でも「救急医療体制の基本的条件」として「救急時に患者が混乱することなく、適切かつ迅速に救急医療を受けることが出来る体制、また救急隊が迅速に 患者を救急医療機関に搬送できる体制であること」と明記されている。
 しかし、救命救急センター設置後も「救急車たらい回し」は解消されなかった。平成20年3月に初めて「救急搬送における医療機関における医療機関の受け入れ状況等実態調査の結果について」が公表されたが、そこでは、医師数も医療機関数も救命救急センター数も救急科専門医数も多い東京都において、重症以上であるにもかかわらず11回以上の受け入れ照会を要したことが1年間で614件あり、最高50の医療機関に受け入れ要請を行っていた重症傷病者がいたことが明らかになった。その後も現在に至るまで同様の報告書が毎年公表されているが問題は解決していない。
 救急要請電話が消防本部間で50回もたらい回しにされることはあり得ない。外傷現場には向かうが高齢者介護施設には向かわないという救急隊はない。救急医療制度は社会のセーフティネットである。セーフティネットとして機能するためには救急車たらい回し問題が解決されなければならない。
 一方、医療技術の進歩と高齢者数の増加を背景に救急医療需要は増大している。わが国の救急医療制度が確立した昭和52年度には年間1,601,045件であった全国の救急出動件数は、平成30年度には6,608,341件と約4倍となった。医療費、医療従事者数も増加しているが、社会保障制度の在り方を考えれば医療資源は有限である。日本の救急医療制度は医師の時間外労働を前提に維持されてきたが、今後の需要増加を見据えれば、過剰労働に頼るシステムは崩壊が免れない。
 欧州、北米においても救急医療需要は同様に増大しているが、①急性期医療機関の集約化、②救急医のシフト勤務、③ナースプラクティショナーなどへのタスクシフトによって対応している。救急医療需要をコントロールすることは困難であり、有限な医療資源で社会保障としての救急医療を提供するためには、わが国でも同様のシステム整備、医療政策が必要である。