第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

[O10] その他

[O10-5] 患者が体験する看護援助による身体の心地よさ
-ICUで人工呼吸器を装着していた患者に焦点を当てて-

○田中 郁恵1、林 優子1 (1. 関西医科大学大学院 看護学研究科 クリティカルケア看護学)

キーワード:人工呼吸管理、苦痛、身体の心地よさ、看護援助

【目的】本研究の目的は、ICUで人工呼吸管理を受けた患者が看護援助によって体験する身体の心地よさに着目し①ICUで人工呼吸器を装着していた患者がどのような苦痛を体験しているのか②苦痛を体験している患者がどのような看護援助を受けて、どのような身体の心地よさを感じているのかを明らかにすることである。【方法】研究デザインは、質的帰納的研究である。研究参加者は、A施設のICUで人工呼吸器管理を受けた患者とした。データ収集は患者の属性を診療録と看護記録より収集し、患者の苦痛の体験、看護援助と心地よさの体験について半構成的面接を実施した。面接調査はICU退出後で患者の全身状態が安定し、精神面でも問題がないことを確認後、個別に実施した。分析方法は、記述全体を文脈単位、1内容を1項目として含むセンテンスを記録単位とし、個々の記録単位を意味内容の類似性に基づき分類・命名するベレルソンの内容分析の考え方を参考にした。【倫理的配慮】所属施設の医学倫理審査委員会と対象施設の倫理審査委員会の承認を得て、参加者に研究の趣旨を説明し同意を得て実施した。【結果】参加者は9名、年齢は30代~70代、挿管時間は9時間30分~222時間30分であった。ICUで人工呼吸管理を受けた患者の苦痛を伴う体験は「人工呼吸器装着中の不快」「抜管直前の不安」「抜管直後の不快」「痛み」「身体の不自由さ」「不眠」「時間感覚の喪失」「心身の変調の兆し」のカテゴリーに分類され、心地よさの体験は「人工呼吸器装着中の不快の和らぎ」「抜管直後の不快の和らぎ」「痛みの和らぎ」「身体の不自由さの和らぎ」「不眠からの解放」「時間感覚の回復」「方向感覚の回復」「心身の活力の兆し」のカテゴリーに分類された。さらに、21の看護援助が見出された。苦痛を伴う体験は、自ら対処しているものもあれば、看護援助によって心地よさの体験となっていた。看護援助を受けた患者の身体の心地よさの体験は、深呼吸を促し息苦しさを感じさせない吸引により、息苦しさからの解放感や、クッションによるポジショニングの工夫によって、痛みの和らぎを体験していた。また、お互いの感情を受け止め合うことにより、看護師と分かり合えた感覚や、患者の心を捉えた言動により、心和む思いをしていた。さらに、回復の兆しを捉えた心身の活力への促しによって、回復意欲の高まりを体験していた。【考察】クッションによるポジショニングの工夫による痛みの和らぎは、手術後に肩甲骨の痛みがある時、バスタオルで枕の高さを調整する援助を受けて、痛みの和らぎを体験していた。これは、看護師の経験や知識、苦痛を理解したケアの工夫によって身体の心地よさをもたらす援助となっていた。またICUにおける患者と看護師の関係性を示す体験として、お互いの感情を受け止め合うことにより看護師と分かり合えた感覚や、患者の心を捉えた言動により、患者は心和む思いをしていた。看護師は挿管の影響などで声が出にくい患者の気持ちを感じ取り、苦痛に感じていることや欲求を患者が言わなくても分かろうとしていた。そして回復に向けたリハビリテーションや治療を受け続ける患者に感謝し、その思いを患者に伝えていた。患者もその言動に心和む思いでいた。このことから、患者の気持ちや感情、大切にしているものを感じ取ろうとする思いが通じた時、看護師と患者は分かり合えた感覚になると考えられる。このような看護援助は、人工呼吸管理を受けた患者の苦痛を緩和し、心身の回復を促進するものであることが示された。