第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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一般演題(口演)

[O2] 呼吸・循環

[O2-1] 舌壊死を来した症例から取り組む口腔ケア

○山本 容子1、佐々木  みなみ1、山浦 梨絵1、藤村 喜子1 (1. 南東北グループ 医療法人社団 三成会 新百合ヶ丘総合病院)

Keywords:舌壊死、気管内挿管、口腔ケア

【目的】
気管内挿管管理中の患者の口腔内に舌壊死を来たした症例からスタッフの意識改革を行い、アセスメントとケアの方法を明確にする。
【方法】
研究デザイン:症例報告  調査期間:2019年11月~2020年1月 対象患者:80歳代女性、腎腫瘍破裂による後腹膜血腫により緊急カテーテル動脈塞栓術(transcatheterarterial embolization:以下TAE)施行した患者 データ収集・分析方法:口腔内写真撮影と診療及び看護記録を時系列で経過観察し、口腔ケアに関する教育の実践
【倫理的配慮】
院内倫理委員会へ報告し承諾を得た上で、研究、発表の主旨と目的、研究方法、個人が特定されない事を説明し対象者の同意を得た。
【結果】
患者は80歳代女性、後腹膜血腫により緊急TAEを行い、術後ICUへ入室した。入室時より気管内挿管をしていた。また、急性腎障害によるショック状態にあり、薬剤による循環管理と持続的血液透析濾過を行っていたが、主治医の指示によりRASS-1~0の軽度の鎮静管理となった。患者の口腔内環境は、右第二~三大臼歯にかけて欠損していたため、バイドブロックを使用せずに挿管チューブを口角固定として管理した。早期抜管とVAP予防に向けて、口腔ケアを1日3回実施していた。循環動態や全身状態は安定し、循環不全の要因となった薬剤投与は終了したが、抜管することはできず、入室8日目に気管切開術を施行した。入室12日目、ケア時に舌尖部の色調変化と口腔内乾燥を認め、主治医へ報告し経過をみたが、2日程度で黒色壊死を認めた。その時点で、口腔外科へコンサルトし、中切歯に舌尖部が当たっていることで舌壊死を来したことがわかった。壊死部のデブリドマンを行い、頻回な保湿管理を実施することで舌壊死部は徐々に消失し、白状粘膜へ移行し改善していった。今後、同様に舌壊死を生じることが無いよう、口腔環境アセスメントとケアの仕方について統一した観察が必要である。患者個々に合ったケアの仕方を実践していくために、まずは、ICUスタッフへの勉強会の実施とケア方法の指導、口腔内観察シート作成、口腔外科と連携して定期的な口腔内環境の評価、ケア方法についてのカンファレンスを行い、舌壊死を回避するために取り組みを開始した。
【考察】
当院では、これまでに気管内挿管患者の管理を行った際に舌壊死を起こすことはなかった。本症例の患者に舌壊死が起きた要因として、急性循環不全によるショックと腎腫瘍破裂、後腹膜血腫による全身浮腫と循環の安定を図るために使用した薬剤の副作用で起きた末梢循環不全が考えられる。また、患者の症状変化を明確にするために、軽度の鎮静としたことも浮腫を助長し、その結果、患者自身で舌を噛んでしまっていた事も要因となったと考える。浮腫により舌尖部の局所的な圧迫により舌壊死を来したと思われるが、私たち看護師は、舌浮腫から舌壊死に至ることまでは考えていなかった。そのため、舌尖部の色調変化がみられた時点で1日3回のみの保湿とケアで経過観察をしたことで悪化させてしまった。舌浮腫は長時間の頸部屈曲、気管チューブによる下顎唾液管圧迫などが原因で起こるといわれていたが、疾患や治療による内因性のものが原因で浮腫を起こし、気管チューブではなく、自身の歯があたることでも舌壊死を容易に引き起こしてしまうことがわかった。全身浮腫を伴う患者の看護ケアでは、日々の口腔ケアだけでなく、統一した口腔内の観察とアセスメントが重要で、異常を認めた際には早期に介入し障害発生を予防していくべきである。