第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

[O3] せん妄ケア

[O3-3] 自動瞳孔計によるICUせん妄発生予測の検討:前向き観察研究

○岡本 菜子1、石澤 美保子2 (1. 茨城キリスト教大学看護部看護学科、2. 奈良県立医科大学医学部看護学科)

キーワード:ICDSC、自動瞳孔計

【背景】IC Uにおいて、せん妄は多臓器不全のひとつである急性の脳機能不全として考えられることが多い。そのため死亡率を含む予後と関連していることが多くの研究で明らかになっている。近年、脳幹および全脳機能を反映すると考えられている自動瞳孔計の測定値とCAM-ICUの評価との関連が海外の論文で発表されているが、ICDSCの評価と自動瞳孔計の測定値についての報告はない。
【目的】入室時の自動瞳孔計の測定値とICDSCによるせん妄発生の関連があるか否か評価すること
【方法】2018年7~9月にICUへ入室した20歳以上の患者を対象に、前向き観察研究を実施した。小児科、脳外内科、心肺蘇生後、精神疾患・認知症の既往を除外とした。せん妄は、入室日より最大入室期間1週間までの間で調査を行い、その間で一度でもICDSCの評価において陽性(4点以上)となった場合に陽性とした。また、入室時に自動瞳孔計Npi-200を使用し測定を行い、測定値は左右眼の平均値とした。ICDSCの陽性・陰性の2群間で自動瞳孔計の測定値の比較検討を行った。統計手法は、Mann-WhitneyのU検定を用い、有意水準は5%未満とした。また、従属変数をICDSCによるせん妄発生、独立変数を入室時の自動瞳孔計の測定値とし、ROC曲線下面積を算出した。本研究は、奈良県立医科大学附属病院の倫理委員会の承認を得た上で実施した。公開文書を提示し、患者データは匿名化を行い扱った。
【結果】期間中133名の患者を対象とした。平均年齢67.9 ± 12.0歳、男性34.6 %、ICU入室時SOFA sore中央値 5 (0-14)、 ICU入室期間3.66 ± 2.4日、緊急入室38.3 %、全身麻酔術後74.7 %、人工呼吸管理27.8 %であった。ICDSC陽性群103名、陰性群30名で、患者背景においては、陽性群の方がICU入室時SOFA sore中央値が高く、入室期間も長かった。また、陽性群は緊急入室、人工呼吸管理の患者が占める割合が多かった。
自動瞳孔計の測定結果の中央値は、神経学的瞳孔指標4.45 (2.55-4.9)、 瞳孔収縮率 (CH) 21.25 (3.5-44.5) %、反応時間 (LAT) 0.27 (0.18-0.82) 秒、平均瞳孔収縮速度 (CV) 1.24 (0.15-3.89) mm/秒、最大瞳孔収縮速度 (MCV) 1.83 (0.33-5.82) mm/秒、平均拡張速度 (DV) 0.58 (0.05-1.61) mm/秒であった。ICDSCの陽性・陰性の2群間で自動瞳孔計の測定値の比較を行った結果、平均拡張速度 (DV) は陽性群0.40(0.16-1.28) mm/秒、陰性群0.66(0.50-1.64) mm/秒 、p=0.017であり、陽性群の方が有意に遅かったが、その他の測定値に差は認めなかった。 また、自動瞳孔計の測定値でICDSCのせん妄発生の予測を行った結果、ROC曲線下面積は、神経学的瞳孔指標0.47、 瞳孔収縮率 (CH)0.41、反応時間(LAT) 0.54、平均瞳孔収縮速度 (CV)0.41、最大瞳孔収縮速度 (MCV) 0.41、平均拡張速度 (DV) 0.41と全て低値を示した。
【考察】 本研究では、ICDSCの陽性群は、自動瞳孔計の測定値のひとつである平均拡張速度 (DV) が有意に遅いことが明らかとなった。先行研究において、CAM-ICUのせん妄評価と瞳孔収縮率 (CH)・平均拡張速度 (DV) には関連があることが示されており、ICDSCによるせん妄評価においても同様であった。しかしながら、ROC曲線下面積は低値を示しており、ICU入室時の自動瞳孔計の測定値がICU入室中のせん妄発生を予測することは困難であることが示唆された。
【結論】IC U入室時の自動瞳孔計の測定値である平均拡張速度 (DV)とICDSCのせん妄発生には関連があった。