第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

Presentation information

一般演題(口演)

[O4] 高度実践・家族看護

[O4-2] ICUに緊急入院した患者・家族の記憶
―ICUダイアリー導入・退室後訪問時のインタビューから―

○春原 梨沙1、和田 咲奈1、西 恵実1、山越 かおり1 (1. JA長野厚生連 南長野医療センター 篠ノ井総合病院 ICU)

Keywords:ICUダイアリー、記憶、緊急入院、家族

【目的】近年集中治療後に生じる患者・家族の集中治療後症候群(Post-Intensive Care Syndrome:PICS)への取り組みが注目されている。集中治療後症候群の原因の一つに、ICU入室中の記憶の欠如、妄想的な記憶の残存がある。そこで今回その記憶の欠如を補い、記憶の再構築への援助に使用されているICUダイアリーを導入し、患者・家族がICU退室後にICUでの出来事をどう記憶しているかを振り返ることで、今後の看護への一助とするため本研究に取り組んだ。
【方法】研究期間は令和元年6月~11月。対象者はA氏(70代男性、急性大動脈解離、上行血管置換術後)、B氏(80代男性、急性大動脈解離、弓部血管置換術後)の2症例及びその妻とした。ICUダイアリーは先行研究を参考にガイドラインを作成し、ICU看護師にその目的と使用方法を周知し運用した。鎮静薬使用のため意識のない患者にかわり、家族に文書及び口頭にてICUダイアリー導入についての説明を行い、家族の同意が得られた患者・家族にICUダイアリーを導入した。調査は同意が得られた患者とその妻に対し作成したインタビューガイドに沿って半構成面接法に基づき実施した。インタビューガイドは入院後にその経緯を知った時期、ICUでの記憶、ICUダイアリーの内容と自身の記憶との相違など11項目で作成した。インタビューは患者がICU退室後、全身状態が落ち着き主治医より許可を得た時期に実施した。分析方法はICレコーダーに録音した会話内容に基づき逐語録を作成し、逐語録から抽出した内容をKJ法の手法に基づき内容分析した。全ての対象者に研究目的、個人情報の保護、調査協力の諾否によって不利益は生じない事、データは研究目的以外には使用しない事を書面及び口頭にて説明し同意を得た。また本研究は対象施設の医倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】2症例のインタビュー内容を複数の研究者にて質的内容分析を行った結果、患者はコード23個、サブカテゴリ―14個、カテゴリー5個で、家族はコード16個、サブカテゴリ―11個、カテゴリー5個に分類した。患者のカテゴリー[]は[途絶した記憶とぐちゃぐちゃな記憶][苦痛は記憶というより身体が覚えている][混乱した記憶の自覚][ICUダイアリーを見た驚き][記憶を補うICUダイアリー]が抽出された。家族のカテゴリー《》は《突然の心臓の病気への信じがたい気持ち》《患者の記憶がなかった事への気づき》《日常と違う姿への戸惑い》《ICUダイアリーは宝物》《手術ができたのは奇跡》が抽出された。
【考察】分析の結果、ICUに緊急入院した患者はICUで過ごした出来事は覚えていないが、サブカテゴリ―『』より『説明といわれてもわからないくらいぐちゃぐちゃ』な妄想的な記憶はICU退室後も患者の中に残存していた。また患者はICU入室中に看護師と一緒に見たICUダイアリーの内容を覚えていなかったが、インタビュー時にICUダイアリーを見返して自分に記憶がないという事実に気づき、それまでの出来事を回想し記憶を補っているように思われた。家族は患者の普段と違う姿に戸惑いつつも、患者と共にICUダイアリーを見て、ICU入室中の患者の記憶のゆがみの存在に気づき驚いていたことがわかった。インタビューを通して患者・家族はICUでの体験を振り返り、ICUでの出来事に対する記憶の整理と共有化を図っていた。看護師がICUダイアリーを通して患者・家族の話を聴くことは、患者がICUでの体験を語り記憶を整理していくための重要な支援であると考えられる。一方で先行研究よりICUでの辛い経験を思い出したくないとの理由から、ICUダイアリーを否定的に捉える患者・家族がいることも明らかとなっており、その導入には患者・家族の思いをしっかり受け止めた上での介入が必要である。