第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

Presentation information

一般演題(口演)

[O8] エンドオブライフケア

[O8-6] オンコロジックエマージェンシーで死にゆく患者と家族のケアに対して集中治療看護師が感じる困難

○奥井 久美子1、北村 愛子2、大江 理英2 (1. 大阪国際がんセンター、2. 大阪府立大学大学院看護学研究科 )

Keywords:オンコロジックエマージェンシー、死にゆく患者と家族、集中治療看護師、困難

【目的】オンコロジックエマージェンシーに陥り、救命目的で集中治療を受ける患者の死亡率は高く、集中治療室(以下ICUと記す)で死にゆくがん患者と家族へのケアは重要である。しかし、集中治療看護師は終末期ケアに困難を感じており、集中治療を受けたがん患者の遺族による終末期ケアの評価がICU以外で死亡した場合より低く十分にできていない。したがって、本研究の目的は、オンコロジックエマージェンシーで死にゆく患者と家族のケアに対して集中治療看護師が感じる困難を明らかにすることである。

【方法】研究参加者:オンコロジックエマージェンシーで死にゆく患者と家族に関わった経験がある看護師経験年数5年以上、ICU経験年数3年目以上のがん診療拠点病院の集中治療看護師。調査方法:半構造化面接法。分析方法:逐語録からオンコロジックエマージェンシーで死にゆく患者と家族のケアに対する困難を表現している箇所を抽出してコード化し、さらにサブカテゴリー、カテゴリーを形成した。倫理的配慮:大阪府立大学大学院看護学研究科研究倫理委員会の承認を得て実施した。

【結果】研究参加者は11名で、ICU経験年数は平均6.9±2.9年であった。オンコロジックエマージェンシーで死にゆく患者と家族のケアに対する困難は≪急変に混乱している家族への心理的支援ができない≫、≪限られた時間の中で家族と深く関わることが難しい≫、≪現状を受け入れられない患者と家族の感情を受けとめきれない≫、≪急変した現状が理解できるように説明することが難しい≫、≪がん治療の継続を断念せざるを得ないことの説明が難しい≫、≪がん治療を受けきれなかった患者の思いを聴くことができない≫、≪がんの症状による苦痛を取り除ききれない≫、≪集中治療を続けるか苦痛緩和を優先するか悩む≫、≪治療の影響で変容する患者の姿を整えることができない≫、≪身体状態に影響するケアの継続の判断が難しい≫、≪患者の死を目前にした家族への死別のケアが十分にできない≫、≪ICUの制約のため最期を迎える患者と家族へのケアに限界がある≫、≪最期を家族と過ごすための病棟転棟の調整が難しい≫の13カテゴリーであった。

【考察】集中治療看護師は、がん患者が急変してICUに緊急入室する際に心理的に強く動揺している家族との関係性を築く時間がないことから介入が難しいと感じており、ICU入室前のがん患者と家族を知る医師や看護師との連携や情報共有により入室前後の移行を支える必要があると考えられた。また、がん患者と家族が思い描いてきた最期のイメージとICUで集中治療を受けている現実とのギャップから引き起こされる強い悲嘆反応に対応しきれず、がん治療を断念せざるを得ない現状の認知を促すことに難しさを感じていると考えられた。がん患者の苦痛については、がん治療の影響で脆弱となっている身体状態に集中治療が加わることにより症状の評価が複雑で緩和しきれないことや、ICUの制約や環境によって看取りのケアが十分にできないことに倫理的苦悩を抱いていると考えられた。クリティカルケア看護領域においてオンコロジックエマージェンシーで死にゆく患者と家族へのケアを提供するためには、がん治療中の患者と家族の思いや心理的変化を理解し、がんの症状コントロールと苦痛緩和についての知識や技術を習得できる教育が必要である。さらに、ICUの環境や体制、ケアの方法を検討することや、集中治療看護師の倫理的苦悩を軽減するためにカンファレンスの実施や多職種との協働が必要であることが考えられた。