第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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一般演題(示説)

[P2] 鎮痛・鎮静、せん妄ケア

[P2-6] 心臓血管術後のせん妄発症状況調査と今後の対応

○勝本 可奈子1、中西 ゆきえ1、立野 淳子2 (1. 小倉記念病院心臓外科、2. 小倉記念病院)

Keywords:せん妄、周手術期、心臓血管外科

【目的】
 心臓外科手術は生体にとって過大侵襲であり、せん妄は術後合併症の一つである。外科病棟におけるせん妄の発症率は30~40%と言われており、せん妄対策は不可欠である。現在、当院心臓外科病棟では、術後せん妄の評価を看護師の主観で行っている。今後、患者の高齢化はますます進むことが予測され、せん妄発症による術後回復の遅延が懸念される。そこで、現在の心臓外科術後患者のせん妄発症状況を明らかにすることを目的に調査を行った。
【方法】
 対象:2019年9月~2020年1月の期間に、当院心臓外科で手術を受けた患者を対象にした。創部デブリートメント、ペースメーカーワイヤー抜去術、胸骨ワイヤー再固定術、局所麻酔による手術は対象から除外した。
 データ収集方法:患者がICUから一般病棟に退出した当日に、DST(Delirium Screening Tool)を用いて初回せん妄評価を受け持ち看護師が行い、以後、24時間毎に毎日評価を行った。DST評価を行いA項目、B項目、C項目すべてにおいて1つ以上の該当がある患者をせん妄発症と判断した。DST導入に際しては、評価者によるばらつきを無くし、正確な評価を行うために、調査開始前に病棟看護師を対象にDSTの評価方法に関する勉強会を行い、看護師は少なくとも1回以上は勉強会に参加してもらった。さらに、勉強会終了後より2週間のスケール評価練習期間を設けてから調査を開始した。調査した項目は、Excelを使用し単純集計を行った。
【倫理的配慮】
 本研究は、当院看護研究倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】
 せん妄発症状況は106例中10例(内、緊急手術3例)であり、10例はすべて開心術であった。発症時期は、ICU退出当日が5例、ICU退出2日目が4例、3日目が1例であった。術後せん妄は、ICU退出後3.4±3.2日で軽快した。せん妄準備因子である脳血管疾患の既往のある患者は17例中せん妄発症は1例であり、せん妄発症との関連は確認できなかった。認知症を既往にもつ患者2例中1例でせん妄発症を認め、発症後はせん妄状態が10日間持続していた。平均在院日数は、せん妄発症のない患者で20.1±7.6日、せん妄発症した患者で24.2±6.36日であった。今回の10例では、NRSスケール評価が術後早期から0~3であり、鎮痛剤内服状況は1日1回程度であった。
【考察】
 心臓外科術後の一般病棟におけるせん妄発症率は約9%であった。術後せん妄発症患者の特徴として、ICUから一般病棟へ退出した当日の夜間にせん妄症状が強く出現する傾向が多いことがわかった。当院では、心臓外科で手術を受ける患者は術後1日目で一般病棟に退出することが多く、術後侵襲期にあることが術後せん妄の発症または症状の増強に影響してることが考えられる。また、環境の変化や昼夜の区別がつかない等の生活リズムの乱れが、術後せん妄の促進に関与していることも推察される。本研究において、術後せん妄は、ICU退出後3.4±3.2日で軽快していることがわかっており、手術侵襲の影響が減少するまでの期間、せん妄を早期に発見し、患者が環境の変化に順応するよう関わることや生活リズムを整えるなどの介入が重要であると考える。また、疼痛コントロールの不足もせん妄発症の因子に関与するとされており、一般的に最も痛みが強いとされる術直後から、安静時の痛みが軽減されてくる術後1~5日間では予防的に鎮痛剤を内服するなどの対応も必要である。術後せん妄を全て予防することは難しいが、発症を早期発見するためには共通した評価指標が必要であり、今後もDSTによる評価を継続して実施し、術後せん妄の早期発見と対応につなげていく。