第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

特別講演

[SL2] クリティカルケア看護における倫理的ジレンマへの対応

演者:会田 薫子(東京大学大学院)

[SL2] クリティカルケア看護における倫理的ジレンマへの対応

○会田 薫子1 (1. 東京大学大学院)

キーワード:臨床倫理、看護倫理、意思決定支援、臨床倫理検討シート、事例検討

 一人ひとりの患者の医療やケアの意思決定をどのように支援すべきか。これは臨床倫理の中核の課題である。臨床倫理は医療とケアの現場で、医療・ケア従事者が患者や家族と応対しながら治療とケアを進めていく際に起きる諸問題について、「どうするのがよいか、どうすべきか」を、患者を中心に考える営みといえる。チーム医療が推進されている現代、臨床倫理は個々の患者に関わるすべての職種がチームで対応すべきものである。
 倫理的ジレンマの多くは、一人ひとりの患者の医療やケアをめぐって、「あちらを立てれば、こちらが立たず」という状態にみられる。ジレンマへの対応として、倫理原則の優先順位を決めて順位の高いほうに従うことを薦めるテキストもあるが、臨床現場の実践においては、まず、どちらも満たすためにはどうすべきか、想像力を働かせ創造的に検討することが医療のプロフェッショナルには求められている。
 一見、ジレンマのようにみえる状況でも、事情や背景の理解を深めることによって打開可能な場合も少なくない。看護師は「患者の擁護者」として、また、医療・ケアチームの要として、問題を読み解き対応を探ることが求められる。
 倫理的ジレンマはしばしば、「患者が標準的な医療を拒否するとき、また、患者が適応外の治療を求めるとき(患者と医療者の意見が一致しない場合)」や「患者の意思が不明な場合」、「患者の意思と家族の意思が異なる場合」、「家族間の意見が一致しないとき」、「患者/患児の治療を家族/保護者が拒否するとき」、また「QOLと生命維持が両立しない場合」、「治療方針をめぐって医療者間で意見が一致しないとき」、「法的な懸念がある場合」などに発生する。これらの問題は、クリティカルケアの切迫した状況下ではより深刻になる。
 特に、患者の人生の最終段階における倫理的ジレンマは、一層重大な問題になりやすい。そのため、日本クリティカルケア看護学会と日本救急看護学会は2019年に、臨床現場で日々の看護に活用できるガイドとして、「救急・集中ケアにおける終末期看護プラクティスガイド」を発表した。同ガイドは、エンドオブライフの判断は「医学的側面だけでなく、治療に対する患者の意向や生き方に関する価値観も重要な判断材料となる」とし、それらの情報を多く持っている看護師がエンドオブライフの判断に寄与することの重要性を説いている。
 こうした臨床倫理ガイドラインを参照しつつ、事例のジレンマを分析し今後の方針を立てたり、またはdeath conferenceなどの振り返りを行い、次の事例におけるよりよい意思決定支援につないだりするために、「臨床倫理検討シート」が活用可能である。
 「臨床倫理検討シート」は「事例提示用シート」、「カンファレンス用ワークシート」、「選択肢の益と害のアセスメント・シート」からなる。「カンファレンス用ワークシート」は、本人の身体的状態に関する「医学的・標準的最善の判断」の検討から始まり、分岐点の選択に関する「本人の思い(意向)」、「家族の思い(意向)」、「社会的視点からの留意点」、「合意を妨げている点」の検討を踏まえ、「本人の人生にとっての最善」の選択を検討し、本人にとっての最善の選択を実現するために「家族に必要な配慮」についても検討したうえで、「今後の対応の方針」(振り返る事例検討では、「あのとき、どうすればよかったか」)をまとめるよう作られている。
 当日は、クリティカルケア看護の倫理的ジレンマに関して、これらのシートを使用し、倫理的に適切な対応のあり方を具体的に探る。
 上述のシートは、以下のサイトから自由にダウンロードできる。
http://clinicalethics.ne.jp/cleth-prj/worksheet/