第17回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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一般演題

[O10] 看護技術

[O10-01] 劇症型Clostridioides difficile感染症に対しての注腸療法を実施した1例

○朝倉 良太1、関 佳祐1、永谷 創石1 (1. 練馬光が丘病院 看護部)

Keywords:注腸、クロストリジウム・ディフィシル感染症

【背景(目的)】劇症型Clostridioides difficile感染症(以下、劇症型CDI)の治療として、患者がイレウスなどを併発している場合、IDSA/SHEAガイドライン(2017)ではバンコマイシンの注腸療法が推奨されている。しかし注腸量、注腸後の停留時間はガイドラインや文献ごとに大きなばらつきがあり、また注腸療法に対する看護ケアや患者の反応などをまとめた報告はない。当院の集中治療室において劇症型CDIを発症した患者に対してバンコマイシンの注腸療法を経験したため、患者の反応、必要と思われる看護ケアについて報告し、この先注腸療法を受ける患者の反応予測と患者への安全な看護実践に役立てたい。
【方法および分析の概要】注腸療法はIDSA/SHEAガイドラインに則り、医師の指示によりバンコマイシン500mgを生食100mlに溶解し6時間毎で開始した。注腸の方法に関してはガイドラインで詳細の記載はなく、投与に使用する物品、投与体位、停留時間に関してはいくつかの先行研究を参考とした。患者の体位は仰臥位とし、投与には下部消化管造影検査に用いられるオールシリコン製の直腸バルーンカテーテル(18Fr)を使用した。経肛門的にカテーテルを挿入して直腸内に留置し、薬剤投与後はプラスチックキャップにてクランプした。1回注腸量100ml、停留時間は30分で開始したが状態改善乏しく、1回注腸量250ml、500mlと増量、停留時間も60分まで増量した。注腸量、クランプ時間、実施前後の心拍数、血圧、呼吸回数、RASS、BPS、鎮静剤、鎮痛剤の量をカルテから後ろ向きにデータ収集した。本症例を報告するにあたり患者本人へ紙面と口頭で説明し、同意および当院倫理委員会の承認を得た。
【結果/経過】患者は特に既往のない58歳男性、胸背部痛を訴え当院へ救急搬送された。精査の結果、StanfordA型急性大動脈解離と診断され、オープンステント併用上行弓部置換術を実施した。術後から発熱、低酸素血症が遷延し人工呼吸器管理継続となりICUにて管理されていた。術後5日目より水様便を認め、腹部膨満を呈した。便中CDトキシン、抗原検査を実施したところ抗原陽性であり、腹部CT検査にて巨大結腸症、イレウスの所見と認めることから劇症型CDIと診断され注腸療法開始となった。注腸量100mlでクランプ時間30分を3日間、注腸量100mlでクランプ時間60分を5日間、注腸量250mlでクランプ時間60分を1日、注腸量500mlでクランプ時間60分を14日間で、注腸療法は合計23日間実施した。注腸量、クランプ時間に比例しRASS(Richmond Agitation-Sedation Scale)、BPS(Behavioral Pain Scale)の上昇を認め、呼吸回数の上昇を認めた。特に注腸量500mlでクランプ時間60分に増量したところ、RASSがベースラインより2~3上昇し、BPSは表情と上肢のスコアが4まで上昇した。呼吸回数はベースラインより5~10回/分で増加した。またそれに伴い、鎮静薬のボーラス回数も増加した。
【結論】バンコマイシンの注腸劇症型CDIに対しての注腸療法で確立されたものはなく、患者の状態で治療内容も変化することが予想される。今回はカルテから後ろ向きにデータ収集しているため限界はあるが、1回注腸量を増やすことによりRASS、BPSの上昇を認めているため、処置前に予め鎮痛鎮静薬の投与量を調整することが必要であると考えられる。劇症型CDIの症例自体が多くなく今後大規模な介入比較試験などは困難と思われるため、看護ケアに関しては症例の蓄積が重要である。この報告が今後、注腸療法を受ける患者の反応予測や看護ケアプランの検討に活用されることを期待する。