第17回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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一般演題

[O2] 鎮痛・鎮静管理

[O2-02] 周術期患者とのコミュニケーションから生まれる看護 
―疼痛に隠されたA氏の訴え―

○小林 宰1、中村 香代1 (1. 災害医療センター 看護部)

Keywords:術後疼痛、恐怖、コミュニケーション、疼痛コントロール

【背景(目的)】看護を実践するために、看護師は患者を十分に知る必要がある。そして患者の個別性を知るためには患者との十分なコミュニケーションを図ることが必要である。そのために看護師は患者が理解しやすい言葉を使用し、評価ツールを使用することで患者の抱える症状や訴えを患者と共有する。ICUでは、主観的な疼痛の訴えを数値化させることで疼痛評価を行っている。しかし心理的因子に対しては、患者が感じる不安の程度の評価が不十分だと考えた。肝部分切除術を受けた60歳代男性のA氏は手術前訪問時に「前回手術のあとに凄く痛くて、ベッドから起き上がるのなんて無理だった。今回も痛いのだけは本当に嫌だ。」と話されていた。術前から疼痛の恐怖を話すA氏に対する看護を振り返り、様々なツールによる患者との情報共有やコミュニケーションから生まれた看護について検討したことについて報告する。
【方法および分析の概要】Hospital Anxiety and Depression Scale(以下HADS)とNRSを組み入れた疼痛コントロール表を作成し、A氏に説明したうえでA氏と看護師がコミュニケーションを図り、共同して疼痛コントロールに取り組んだ看護について振り返り、検討した。
 倫理的配慮として使用した情報の管理に努め、情報の匿名性を厳守しプライバシーの保護に努めた。e-Aprinの研究者コースを取得している(AP0000306638)
【経過/結果】術後1日目の夜間、A氏はNRS8点の疼痛を訴えておりHADSは7点であった。頓用の鎮痛薬を使用することでNRS2点、HADS5点まで減少した。「痛みは落ち着いてきた。でも次いつ痛くなるのか分からないね」と話され就寝した。術後2日目起床時NRS4点と夜間よりも上昇していたがHADS4点と減少した。A氏に鎮痛薬が使用できることを伝えると「今は痛いけど大丈夫。昨日寝る前が一番痛かったから、そこで使える鎮痛薬があると知っているだけでも安心して過ごせますよ」と話された。A氏へ術後のNRSとHADSの経過を伝えながら、鎮痛薬の使用タイミングや離床のタイミングを話し合うと「昼間は頓用の鎮痛薬は使わずに定時の鎮痛薬の後でリハビリをして、夜寝る前に頓用の鎮痛薬を使います」と話されていた。術後3日目A氏と話し合い決めた疼痛コントロールスケジュールにより、夜間疼痛で覚醒することなく入眠でき、付き添い歩行まで離床を進めることができた。
【考察】術当日はNRSの点数減少に伴ってHADSの点数も減少したが、NRSが4点以下になるとHADSの点数は上昇していた。術後2日目になり「痛みは落ち着いたけど次にまた痛くなるかもしれない」「痛いけれど頓用で使える痛み止めがあると安心」と話されていた。疼痛という身体的側面だけを考慮した場合NRS0点を目標に疼痛コントロールするが、A氏の場合はNRSが0点に近づくほど鎮痛薬の効果が切れるタイミングに恐怖を感じていたことが明らかになった。NRS4点程度の疼痛を自覚しながら、自分の決定するタイミングで鎮痛薬を使用できるという安心感が、A氏の疼痛コントロールにおいて重要であると考えた。A氏にとって疼痛が消失することだけではなく、疼痛をコントロールできるという実感が、恐怖をも克服することにつながったのではないかと考えた。A氏と共に検討し、NRS4点の疼痛を目安として離床のタイミングや鎮痛薬使用を決定することで恐怖を克服し、自立した治療計画管理につなげることができたと考える。
【結論】疼痛を訴えるA氏に必要な看護とは、疼痛を消失させるだけではなく、疼痛を自分でコントロールできるという実感をもたせることが必要であり、疼痛への恐怖の克服が自立した治療計画管理につながった。