第17回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題

[O2] 鎮痛・鎮静管理

[O2-03] ICUに緊急入室となった患者の記憶の整理

○中平 貴惠1、岡崎 正和1、秋山 祐哉1、山本 里沙1、竹富 忍2 (1. 高知大学医学部附属病院 看護部、2. 南部徳洲会病院 看護部)

キーワード:ICU緊急入室患者、記憶の整理、回復

【目的】集中治療室(Intensive Care Unit:以下ICU)で治療が必要な患者は、侵襲的治療に伴う心身のストレスよって、非現実的な体験や記憶の喪失により記憶が混乱し、心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)を発症しやすくQOLの向上を阻害していることが報告されている。得に、ICUに緊急入室となる患者は、治療や手術を受ける心身の態勢が整わずに治療を余儀なくされるために多大な心身のストレスを抱えていると考えられる。ICUに緊急入室となる患者が、精神の障害を回避し回復過程が辿れるための看護援助を見出すには、まずはICUに緊急入室となった患者が自身の体験をどのように認知し、記憶の整理を行っているのかを明らかにする必要がある。ICUに緊急入室となった患者の記憶の整理を明らかにし、看護実践への示唆を得ることである。記憶の整理とは、患者自身が記憶の歪みや欠落を自覚し、周囲のサポートを得ることで欠落した部分を補う作業や、非現実的な体験を捉えなおすことと定義した。なお、本研究では記憶の整理を患者の認知と捉えた。
【方法】ICUに緊急入室となった患者を対象に、半構成的面接を行った。面接内容から文脈に沿って患者の認知や記憶の整理に関する内容をコード化し、類似した記憶の整理の内容をまとめ、それを忠実に反映する命名を行いカテゴリー化を繰り返した。研究対象者に目的・方法を文書と口頭で説明し同意を得て実施した。研究を進めるにあたり、高知大学医学部倫理委員会の承認を得た。
【結果】研究協力者は、ICUに緊急入室となった男性患者5名であり、年齢は45~67歳であった。ICUに緊急入室となった患者の記憶の整理として、6つのカテゴリーと24のサブカテゴリーが抽出された。〔ICU入室中の記憶の曖昧さを自覚する〕は、【自分の思っている時間と実際の時間の違いに気づき混乱する】などのサブカテゴリーから構成された。〔自らの非現実的な体験を認識する〕は、【体験と記憶を照らし合わせ自分の記憶の歪みや欠落に気づく】などから構成された。〔身体の感覚から現実的な体験を自覚する〕は、【身体症状を通して自分の置かれている状況を解釈する】などから構成された。〔見聞きした情報から時間の感覚を取り戻そうとする〕は、【周囲の人からの情報を頼りに時間を把握する】などから構成された。〔記憶が不確かであるが事実を知ろうとしない〕は、【ICU入室中の欠落した記憶は必要ないため自ら知りたいと思わない】などから構成された。〔家族や医療者の支えを得ることで精神的な安心に繋がる〕は、【医療者との関わりが治療に対する安心感に繋がる】などから構成された。
【考察】得られたデータより分析の結果、ICUに緊急入室となった患者の記憶の整理は、〈多くの苦痛に苛まれながらも記憶の歪みや欠落を自覚する〉〈自らが必要な情報を選択し記憶を補完する〉〈周囲の人の支えを得る〉の3つの特徴が明らかとなった。これらより、患者が自身の体験を語ることで状況の認識に至ることや、家族や医療者は患者が自身の体験をどのように捉えているのかについて把握することが可能となり、これらの関わりが記憶の補完の手助けとなると考える。そのため、患者の心身の状態を見極めた上で、患者に語りを促す機会を設けることで、自身の体験を客観的に捉え記憶の歪みや欠落に気づくとともに、自身が記憶を整理できるように関わることが重要である。
【結論】ICUに緊急入室となった患者の記憶の整理として、6つのカテゴリーが明らかとなった。看護実践の示唆として、患者のニーズに応じた情報提供や、ICUでの出来事を言語化できるような関わりによって身体のみならず精神的な安寧を図ることが重要であると考える。
O2-03