第17回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題

[O3] せん妄ケア

[O3-02] 消化器外科手術における術後せん妄発症要因の実態調査

○久道 恵理子1、坂田 歩未1 (1. 高岡市民病院 看護部)

キーワード:せん妄、手術

【目的】消化器外科手術における術後せん妄の発症要因を明らかにする。
【方法】消化器疾患(大腸癌・胃癌・肝臓癌・膵臓癌・鼠径ヘルニア・腹壁瘢痕ヘルニア・胆嚢炎・胆管炎・総胆管結石・イレウス・虫垂炎・消化管穿孔・消化管出血)で全身麻酔下での手術を受けた患者(106名)を対象とした。術後1~3日目に日本語版ニーチャム混乱・錯乱スケールにて点数化し、24点以下をせん妄発症群、25点以上を非発症群として分類した。せん妄発症の要因として考えられる12項目(年齢(65歳以上・64歳以下)・性別・聴覚障害の有無・入院から手術までの期間・術前後の睡眠導入薬や抗不安剤等の使用の有無・緊急手術の有無・絶食期間・術式(腹腔鏡下・開腹)・ライン(中心静脈カテーテル・末梢静脈カテーテル・胃管・ドレーン・硬膜外麻酔・膀胱留置カテーテル、酸素チューブ)数・硬膜外麻酔の有無・術後ICU入室の有無)について二項ロジスティック回帰分析変数減少法を用いて分析した。また、本研究は高岡市民病院看護研究審査委員会の承認を得て行った。患者情報は研究目的以外に使用しないこととし、研究終了後一定期間の保存をした後、データを削除することとした。委員会承認番号は1*1-2。
【結果】対象患者は106名。日本語版ニーチャム混乱・錯乱スケールで24点以下の患者は24名だった。二項ロジスティック回帰分析変数減少法で術後せん妄発症と有意な関連性を示したのは、65歳以上の年齢(OR=30.2)、術後の睡眠導入薬や抗不安剤等の使用(OR=29.2)、ライン数3本以上(OR=5.0)の3項目であった。また、入院から手術までの期間(OR=4.46)、絶食期間(OR=4.26)、開腹手術(OR=3.11)の項目も有意な傾向を示した。
【考察】特に術後せん妄と関連が強かったのは65歳以上の年齢という項目であった。小松らは、高齢者は新しい環境に適応しにくく、入院による生活環境の変化や検査・手術などが契機となり、不眠や精神的混乱などが出現することがあると述べている。入院生活に適応できず、心の準備が不十分なまま手術を受けると、術後の身体的変化や精神的変化を受け入れられず、不安やストレスを抱え込み、不眠・抑うつ・幻覚・幻聴などの精神症状が出現することがある。高齢者は加齢に伴う身体の諸機能の変化により手術侵襲が大きく、さらに理解力や判断力の低下や環境への不適応によって混乱状態を招きやすく、術後せん妄を発症しやすいと考えられる。次に術後せん妄と関連が強かった項目は術後の睡眠導入薬や抗不安剤等の使用であった。北村は、睡眠効果が増強することで覚醒に時間を要したり、覚醒時にせん妄症状を引き起こすと述べている。睡眠導入薬の効果が翌日まで持ち越され、日中傾眠傾向になることで昼夜逆転となる。夜間の良眠や熟眠感を得るために、睡眠導入薬使用の時間を考慮したり、できる限り日中に離床を進めたりすることで生活リズムを整える援助が必要となる。3番目に術後せん妄と関連が強いのはライン数3本以上という項目であった。カテーテル類の挿入により心身共に抑制状態にあり、拘束感が強まりせん妄発症へと結びつきやすくなると考えられる。外科手術後は身体的にも精神的にも大きなストレスを生じさせ、複数の要因が重なり合ってせん妄を発症する。手術前後での身体・精神・生活背景などから患者の状況をアセスメントし予防を行うことが重要である。
【結論】本研究において、年齢が65歳以上、術後の睡眠導入薬や抗不安剤等の使用、ライン数3本以上の3項目が消化器外科手術における術後せん妄発症要因として強い関連を認めた。