第17回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題

[O5] エンドオブライフケア 他

[O5-05] 救命救急センター看護師のACPとDNARの捉え方
ー事前指示書を持つ患者への関わりを通してー

○鈴木 英子1 (1. 順天堂大学医学部附属静岡病院 看護部)

キーワード:アドバンスド・ケア・プランニング

【背景(目的)】アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは,意思決定ができるうちに人生の最終段階に受けたい医療やケアについて患者,家族,医療従事者が繰り返し話し合い共有する取り組みである.しかし ,救急の臨床の場で患者が突然生命の危機的状況に陥った場合に,患者の事前意思を確認する機会は少ない.今回,事前意思表明を行っていた患者への関わりを通し,Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)と患者の意思に沿った医療について考察する.
【方法および分析の概要】研究デザイン:症例報告、対象者:A氏 60歳代 男性 多発性皮膚膿瘍,急性腎不全,敗血症性ショック
 呼吸困難感,体動困難を主訴に受診し緊急入院となった.第1病日より切開排膿,昇圧剤,CHDFによる治療を開始し, フェンタニルによる鎮痛を行った.入院時よりせん妄により意思疎通を図ることは困難であった.第2病日,内縁の妻(以下B氏とする)から,A氏は日本尊厳死協会の会員であると伝えられ,以前記載した事前指示書が提示された.しかし, B氏は内容を把握しておらず,指示書も本人のサインはあったが内容のチェックがなく,本人の意向を尊重することは難しい状況だった.
 本研究はA氏の代理意思決定者であるB氏と所属病院看護部倫理委員会の承認を得た上で実施した.
【結果/経過】治療の選択はB氏の意向を確認し行っていた. B氏と面談した際,事前指示書の存在は知っているものの内容は把握していなかった.以前,子供が植物状態になり介護を経験したため,早く死ぬことを望んでいたと話された. B氏に患者が今元気だったらどう望むか考えていただいた.内容については,すべて事前指示書通りに考えていると思うとのことであった.現行の医療行為についても併せて説明し,患者の意志が確認できないため,医師と家族とで相談しながら検討することを確認し,医師との話し合いの機会を設けた.再度,医師と家族と共に事前指示書の内容を確認し, 現行治療は継続しながらも,急変時にはDNARとする方針に変更された.
 一方,看護師からは,事前指示書によって積極的治療をA氏が望んでいないにも関わらず,現行治療の継続されていることに対し,A氏の意向が反映されていないという意見が聞かれた.そのため,受け持ちとリーダー看護師に対し聞き取りをし,カンファレンスを開催した. 22名に実施し,A氏の治療は患者の意向を反映していないと考えているスタッフが70%以上を占めていた.また, B氏の意向に沿った治療であり,緩和治療にシフトすべきという考えが半数以上を占めていた.第19病日目にA氏は死亡された.
【結論】日本集中治療医学会のDo Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告では,「DNAR指示は心停止時のみに有効である.心肺蘇生不開始以外はICU入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである」と述べられている.しかし,本事例で看護師は,A氏の事前指示書の存在によって, 現行治療が患者の意向に反していると捉え,積極的治療を行うべきでないと考えた.しかし,事前指示書の前提は,「回復が困難であると判断される」まさに人生の最終段階に患者の意向に沿った医療が提供されることである.救急の臨床の場では,その最終段階にあるかの判断は困難であり, 看護師はDNARと人生の最終段階における患者の意向を同意義に捉える傾向にあるのではないかと推察される.また,そのことは看護師のジレンマにも繋がる.患者の意向が確認しづらい救急の場であるからこそ,多職種・家族が話し合いを繰り返すACPの理念に沿った治療が重要になると考える.