第17回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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一般演題

[O8] COVID-19呼吸ケア

[O8-03] 重症COVID-19肺炎患者が腹臥位療法を継続し、気管挿管を回避した一例 -患者の自己効力感を高めた関わり-

○大迫 明日香1、小笹 真美1、藤澤 瑠佳1、三宅 徹1、田中 杏奈1、服部 利香1、鴇田 美奈子1 (1. 横浜医療センター 看護部)

Keywords:COVID-19、腹臥位、自己効力感

【背景(目的)】当ICUでは重症COVID-19患者を受け入れており、気管挿管下で治療を行う患者が多い中、気管挿管を回避できた症例も数例経験してきた。1日12~16時間の腹臥位維持は肺障害の改善に有効とされており、今回看護師の働きかけにより患者自らが腹臥位を長時間継続的に行い、病態の悪化を防ぎ気管挿管を回避できた症例を経験した。この症例を振り返り今後の学びとしたいと考えた。
【方法および分析の概要】A氏、40代男性、BMI 35、2020年7月に発熱、PCR検査陽性を確認後、他院で入院加療をしていた。発症10日目、肺炎と無気肺による呼吸状態悪化を認め、気管挿管を含めた治療のため転院搬送となる。
 A氏個人が特定されないよう配慮する旨を説明し同意を得た。
【結果/経過】発症11日目、当院へ転院搬送。5Lマスクで酸素化係数(以下P/F値とする)170であるが呼吸苦はなかった。発症12日目、P/F値110。高流量カニュラ(以下HFNCとする)50L50%で開始。A氏は「酸素を上げると良くなるのでしょう。自覚がないのに悪化していると言われて、元に戻れなくなる気がして怖い。」と話す。発症13日目、HFNC60L70%にてP/F値78。A氏、医師、看護師と無気肺改善のため腹臥位を2時間行う計画を立て実施。A氏は実施中SpO₂96%に上昇みられ、腹臥位の効果を実感できた。発症14日目、腹臥位はA氏に効果的であったがP/F値の改善はなく、医師より気管挿管が必要となる可能性を説明されたが、「人工呼吸器も管を入れるのも怖い、良くなっているのかがわからない。精神的に疲れた。」と話し、否定的な感情になっていた。A氏に対し看護師はこれまでの頑張りを容認し、気管挿管を回避するために有効とされる12時間以上の腹臥位実施を提案し実施できるよう調整した。看護師はA氏が腹臥位中でも気分転換ができるようTV視聴やインターネット環境を整備した。また、できる限りベッドサイドで見守り、腹臥位を実施中にはSpO₂値の上昇が見られていることを伝え、長時間腹臥位保持ができたことへの頑張りを容認する声をかけ続けた。発症16日目、HFNC60L70%にてP/F値92。A氏より自発的に食事時間を除く時間、腹臥位を取り組む様子が見られる。P/F値100とやや改善、A氏へ値が少し改善していることを伝えると共に、呼吸機能回復訓練機器を使用したリハビリを実施しHFNC60L60%に減量できた。
 A氏が腹臥位と呼吸機能回復訓練機器の取り組みを連日続けたことにより、発症19日目にHFNC離脱し酸素4LカヌラでP/F値230まで改善。気管挿管をすることなく翌日ICUを退室となった。
【結論】A氏はCOVID-19罹患後、自覚症状がないまま呼吸状態が悪化していたこと、治療開始後も改善がないことから今後の経過に恐怖を感じていたと考えられる。また、隔離状態による精神的ストレスも生じていた。そのような状況の中でも環境を整え、看護師がA氏に腹臥位による効果や頑張りを容認し、腹臥位による治療の成功体験を共有できたことが、患者の自己効力感を高め治療に意欲的に取り組めたと考える。