第17回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

特別講演

[SL3] 医療と経済-COVID19前後での医療経済の変化とこれからの医療- 演者:真野俊樹 (多摩大学大学院/中央大学大学院)

[SL3-01] [特別講演] 医療と経済-COVID19前後での医療経済の変化とこれからの医療-

○真野 俊樹1,2 (1. 多摩大学大学院、2. 中央大学大学院)

キーワード:医療経済、コロナ禍


 日本における新型コロナウイルス感染による死亡者数が少ないことが話題になっている。新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の尾身茂副座長は、その理由について、医療体制や初期段階でのクラスター対策、国民の健康意識の高さを挙げている。
 しかし、いま一つ納得がいかない国民が多く、すっきりした説明が求められている。
 尾身副座長の指摘の医療体制だが、奇しくもコロナウイルス感染騒動によって死亡者数や感染者数が国際的に大きく違うことが話題になり、結果的に医療の国際比較に様々な人が関心を持った。そのおかげで私がダイヤモンドオンラインに書いた「コロナで絶体絶命のイタリアと違い、日本で死者激増の可能性は低い理由」という記事が非常に多くの反響を呼び、最終的には Yahoo のヘッドラインにも加えられる勢いであった。しかし、いわゆる第三波がおきてからは、少し風向きが変わった。医療崩壊が日本でも起きる、あるいは起きた、という論調になった。
 ここで、新型コロナウイルス感染の特徴を復習しておきたい。
 新型コロナウイルスが風邪の症状を引き起こすウイルスということで、当初、インフルエンザと比較されることが多かった。ただ、両者の違いは新型コロナウイルスでは感染者の20%が重症化し、5%が人工呼吸器など高度な医療が必要になることである。この重症化した20%の人が主な感染源になるが、新型コロナウイルスに感染しても症状がなかったり、軽い風邪症状で終わったりする残りの80%の人も他人に感染させる可能性があるという特徴を持っている。患者数が医療キャパシティを超えると、病床が不足したり、人工呼吸器などの医療機器が不足したりする事態が発生し、専門用語でいう医療崩壊が起きる。医療崩壊とは、「患者が医学的な必要に応じ入院できないことなど、医師による適切な診断・治療を受けられないこと」で定義される。医療崩壊は新型コロナウイルスの感染が拡大するイタリアなどで起きたことである。また、医師があまりに多くの患者を目の前にして疲労困憊しても同じ結果を招く。 
 日本は医療のレベルが高く、医療のキャパシティも大きいので、諸外国に比べて新型コロナウイルス感染による死亡者数が非常に少なく抑えられている。逆に、イタリアのように医療崩壊が起きている国では死亡者数が多くなっている。もちろん、中国のように都市の完全閉鎖といった手段を使えば、感染拡大が抑えられ、死亡者数は減る。突貫工事で病院を新設し、医療のキャパシティも増やした中国は新型コロナウイルスの感染拡大を乗り切りつつあるともいわれる。
 後半は、医療経済の話題を述べたい。日本の医療費においては高額な最先端医療も、効果があれば原則として保険に収載する。このルールは、世界に冠たる国民皆保険制度の本質であるのだが、そのために、近年では社会の高齢化以上に医療の高度化が、医療費を高くしていると言われる。一方、コロナ禍において日本の医療の大きな特徴の一つである、身近な医療ということの意味が問われている。すなわち、「不要不急の医療」という概念である。医療費を減らすという意味では、高度な医療か身近な医療のどちらかを、もちろん両方でもいいのだが、減らすと言う流れになっていくであろう。さらに、コロナ禍で、世界が借金漬けになっている。
 このあたりのマクロの医療費の問題を、コロナ禍と関連づけて考えてみたい。