11:10 AM - 12:10 PM
[IL1-01] 患者と家族の心をケアする共感的コミュニケーションの基礎
Keywords:心のケア、共感、コミュニケーション
医療者の皆さんはとくに、患者さんの役に立ちたい、という気持ちの強いかたが多いのではないかと思います。それだけに、役に立てないのは辛いことです。 苦しむ患者さんや、不安にさいなまれているご家族を目の前にして、治すことができないし、不安や苦しみを取り除いてラクにしてあげることもできないとき、その無力感は辛いものでしょう。役に立てないどころか、患者さんから「あなたに何が分かるんだ!」とか「そんな治療はするものか!」「役立たず!」と怒られたりののしられたような経験をお持ちの方もおられるでしょう。 目の前で、不安、悲しみ、絶望感などに苦しむ患者さんやご家族の苦しみを治せないとき、私たちに何ができるでしょう。 私たちが本当に辛く苦しいとき、もっとも救いになるのは、ただ、その辛さ、苦しさを誰かが分かってくれること、そういうときがあります。 例えば、あなたが大失恋をしたとします。悲しくて、寂しくて、不安で、怒りもいっぱいで、苦しくてたまらない。そのあまりに辛すぎる気持ちを、思い切って人に話します。そのとき相手にできる最大のサポートは、前向きなアドバイスでも気休めでもなく、あなたの苦しみ、辛さを分かってくれて、一緒にいてくれることかもしれません。 仮にあなたが「辛くて悲しくて、布団に入っても、なぜフラれたんだろう、何が悪かったんだろう、自分はどうなるんだろう、とぐるぐる考えてしまう・・・悲しくて悲しくて・・・」と打ち明けたとします。もしそのとき相手から、「そんなふうに思う必要はないよ」とか「もっといい人が見つかるから大丈夫だよ」と言われたり、「なぜうまく行かなかったか、よく反省して、原因を考えて、次からはうまく行くようガンバロー!」と前向きに言われたりしたら、どう感じるでしょう。さらには「抗うつ薬を出すよ」だったら(!?)
そんな応答をされると、いっそう辛くなったり、「やっぱり分かってもらえないんだ」と孤立感を強めたりするかもしれません。私たちは、本音を語ったときにそれを分かってもらえないと傷つきます。 医療者の責任の1つに、指導すること、知識を与えることがあり、それはとても大切なことです。しかし医療者のみなさんが患者さんの心の苦しみに対応するとき、それではうまく行かないこともあるでしょう。ときに、患者さんや家族の苦しみに寄り添い、一緒にいること、それが最善のケアになることがあるかもしれません。心理師の私が思う心のケアとは、「心の異常な人を治して正常にするもの」ではなく、誰にもある人間らしい弱さをケアし、心の成長を支えるものです。 そんなケアをするときにおこなうことの一つとして、共感的に話を聴く傾聴があります。傾聴とは、「相手を救おうとせず、気持ちをラクにしようとせず、相手を変えようともせず、相手の気持ちをなるべく相手の身になって理解し、理解したことを言葉で返す」ことです。 傾聴をさまたげる最大の要因は、聴き手が、無力感、絶望感、不安、悲しみなど辛い感情に耐えられず、感情から逃げようとすることです。傾聴するには、自分の無力さを引き受け、無力感に耐えることが必要になります。それは決して楽でも簡単なことでもありません。 次のような応答は傾聴になっていません。「うん、うん、そうですか。でも、そんなことはないですよ。」 傾聴は一生かけても極められないどこまでも奥の深い営みですが、この講演でそのやり方の基礎をお伝えします。 この講演ではさらに、「心のケアとは、異常を治すことではなく成長をサポートすること」について理解を深めていただけるお話と、医療者の燃えつきを防ぐためのご提案もしたいと思います。
そんな応答をされると、いっそう辛くなったり、「やっぱり分かってもらえないんだ」と孤立感を強めたりするかもしれません。私たちは、本音を語ったときにそれを分かってもらえないと傷つきます。 医療者の責任の1つに、指導すること、知識を与えることがあり、それはとても大切なことです。しかし医療者のみなさんが患者さんの心の苦しみに対応するとき、それではうまく行かないこともあるでしょう。ときに、患者さんや家族の苦しみに寄り添い、一緒にいること、それが最善のケアになることがあるかもしれません。心理師の私が思う心のケアとは、「心の異常な人を治して正常にするもの」ではなく、誰にもある人間らしい弱さをケアし、心の成長を支えるものです。 そんなケアをするときにおこなうことの一つとして、共感的に話を聴く傾聴があります。傾聴とは、「相手を救おうとせず、気持ちをラクにしようとせず、相手を変えようともせず、相手の気持ちをなるべく相手の身になって理解し、理解したことを言葉で返す」ことです。 傾聴をさまたげる最大の要因は、聴き手が、無力感、絶望感、不安、悲しみなど辛い感情に耐えられず、感情から逃げようとすることです。傾聴するには、自分の無力さを引き受け、無力感に耐えることが必要になります。それは決して楽でも簡単なことでもありません。 次のような応答は傾聴になっていません。「うん、うん、そうですか。でも、そんなことはないですよ。」 傾聴は一生かけても極められないどこまでも奥の深い営みですが、この講演でそのやり方の基礎をお伝えします。 この講演ではさらに、「心のケアとは、異常を治すことではなく成長をサポートすること」について理解を深めていただけるお話と、医療者の燃えつきを防ぐためのご提案もしたいと思います。