1:36 PM - 1:48 PM
[O11-04] コロナ禍におけるICUダイアリーを活用した家族ケア
Keywords:ICUダイアリー、家族ケア、コロナ禍
【目的】新型コロナウイルスの感染拡大による感染予防策の一環として、多くの施設が家族面会を制限している。そのため、看護師はICUにおける家族ケアのあり様を様々に工夫し変更せざるを得ない状況にある。本来、集中治療後症候群(post intensive care syndrome):以下PICSと略す)の患者の認知機能への介入としてICUダイアリーは紹介されている。幾つかの先行研究は、ICUダイアリーの活用は患者だけでなく、家族への心理的ケアにつながると述べている。一方で、ICUダイアリーを活用した家族ケアへの介入に関する先行研究は少ない。本研究で、ICUダイアリーを活用した家族ケアの実践を事例研究として考察することで、ICUダイアリーが家族の心理状態にどのような影響をもたらすかを明らかにする。【方法】質的記述的研究<対象>:肝肺症候群の診断にて生体肝臓移植術後、呼吸不全が増悪し人工呼吸器管理ならびに体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)での管理が必要となった患者の家族(妻)。<データ収集>後方視的に診療記録、退院後の家族の手紙より、家族(妻)の言動に関する情報を収集し、心理状態ならびにその変化に該当する語りを意味内容の類似したものに分け、サブカテゴリー「」、カテゴリー<>を抽出した。【倫理的配慮】本研究は研究施設の倫理委員会の承認を得て実施し、対象者には文書で同意を得た。また、個人情報保護法に則り、データ管理の徹底に努めた。【結果】得られたデータより23のサブカテゴリー「」と11のカテゴリー<>が生成された。家族(妻)は病状の悪化に伴いECMO導入となり、患者へ何もしてあげられない「無力感」 を感じつつ「病状回復への希望」を持ち続けていた。ECMO離脱困難な状況と合併症の出現時期より「不可逆的な病状との対峙」し「喪失への不安」「死の覚悟」を余儀なくされていた。その間ICUダイアリーは家族(妻)にとってサブカテゴリー「会えない時間を埋める日記」「視覚的に患者と家族をつなぐ」「看護師への信頼」として捉えられ、<患者と家族をつなぐ道具>になっていた。さらに、ダイアリーを通して看護師への信頼が深まり、「患者と過ごす貴重な時間」の提供につながり「共に生きてきた軌跡」や「代理意志決定者としての苦悩」を語るように変化した。死亡退院後は家族で開くダイアリーが「夫の生きた証」として位置づけられ「悲嘆過程に寄り添う」ものとして存在していた。【考察】ICUダイアリーは病状改善が厳しい患者の闘病並びに代理意思決定を担う家族(妻)の苦悩を支えるための患者と家族をつなぐ道具となりえる。また、家族と看護師の信頼関係を強め、生命の危機的状況にある中で家族の自然な語りを生み、情動反応を促し正常な悲嘆反応のプロセスの一助になると考える。本事例においては、家族はICUダイアリーを退院後の家族の悲嘆過程に、「患者の生きた証」や「家族に寄り添う」ものとして存在の意味をとらえていた。 【結論】家族ケアとしてのICUダイアリーの活用は、コロナ禍で面会を制限された患者と家族をつなぐ役割を担い、家族によって意味づけされた存在となり正常な悲嘆過程の一助になり得る。