第18回日本クリティカルケア看護学会学術集会

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パネルディスカッション

[PD9] クリティカルケアにおける超高齢患者と家族に対する看護実践

Sun. Jun 12, 2022 10:40 AM - 12:00 PM 第9会場 (総合展示場 F展示場)

座長:矢冨 有見子(国立看護大学校)
   吉田 嘉子(国立病院機構別府医療センター)
演者:丸谷 幸子(名古屋市立大学病院 看護部)
   松波 由加(済生会山口総合病院)
   吉里 美貴(一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院)
   菊池 亜季子(日本赤十字社医療センター 救命救急センター)

11:00 AM - 11:20 AM

[PD9-02] 超高齢患者の身体・精神機能の変化に対応するためのアセスメントと看護ケア

○松波 由加1 (1. 済生会山口総合病院)

Keywords:超高齢患者、看護ケア

90歳以上の超高齢者は、加齢変化により様々な身体機能が低下する。具体的には、呼吸筋力・咳嗽力の低下や心拍出量の減少などにより呼吸・循環系の機能が低下している。また、細胞内液の減少により脱水になりやすいが、輸液負荷によって心負荷は増大しやすい。更に、免疫細胞数の減少やストレスに対する抵抗力の低下により免疫機能も低下しているため易感染性の状態にある。そのため、病態が重症化しやすく、回復が遅延するだけでなく、様々な合併症を生じやすい。そして、このような身体機能の低下は、生体反応を鈍化させるため疾患の典型的な症状を認めない、また症状の発現を遅延させる。精神機能の加齢変化では、認知機能低下や流動性知識の低下による記憶力・問題処理能力の低下を認める。また、コミュニケーションの特徴として、流暢さが低下し、話しが脱線しやすくなる。このような精神機能の低下は、患者から主観的情報を的確に収集することを難しくさせる。
加齢による身体・精神機能の低下によって生じる疾患の症状発現の遅延や消失、主観的情報の不足によって、異常の早期発見や臨床推論の展開が困難となる。そのため、超高齢患者のアセスメントでは、患者からの主観的情報だけでなく身近な関係者からも普段の様子について情報を収集することが必要である。また、身体症状は全体的に確認し、1つ1つの症状は多面的に捉えなければならない。そして、集めた情報をもとに患者の全体像を把握して健康上の問題を抽出し、対処すべき優先順位を判断しなければならない。
超高齢患者に対するケアは、病状を早期に安定させ、合併症を予防することと早期にリハビリテーションを開始し、廃用症状の発現を防ぎ日常生活の再獲得を目指すことである。そして、抵抗力、耐久力、回復力が著しく低下した超高齢患者に対して、このようなケアを提供するためには様々な専門職による集学的アプローチが必要である。また、急性期では患者の救命や回復が最優先となり医療者主導のケア提供となりやすい。しかし、変化や時間経過が早い急性期ケア提供の場面でも超高齢患者は、医療者とは違う時間の流れ、患者独自の生活環境が存在している。これは、長年の生活パターン、信念・智恵、経験などによって確立されたものである。救命が最優先されるケア提供場面であっても患者独自のこのような時間の流れや生活環境を軽視してはいけない。
急性期ケアから回復期・慢性期ケアへと移行する場面では、病棟との連携強化が必要である。超高齢患者は、急性期を脱しても合併症を生じやすく、病状が悪化するリスクを抱えている。そのため、急性期での看護ケアを一般病棟でも継続しなければならない。そこで、病棟と連携し継続看護を行うために情報共有とコミュニケーションが重要となる。療養環境を整えるための詳細な情報を診療録だけでなく、カンファレンスや病棟訪問など双方向の情報交換が行える場をつくることが必要である。また、超高齢患者は「人生の最終段階」に在ると捉えることができる。そのため、患者のQODの質向上を目指すために治療に関する情報だけでなく、患者の生活環境に関する細やかな情報を共有することも重要となる。
このように、身体・精神機能が低下した超高齢患者に対し、急性期看護を提供しながらも患者独自の生活環境を尊重した関わりを行うためには、アセスメント力だけでなくアドボカシー、責務、協力、ケアリングという倫理的看護実践の高い能力が必要だと考える。