第18回日本クリティカルケア看護学会学術集会

Presentation information

特別講演

[SL4] クリティカルケアは病院収益にどのような意味をもたらすか

Sat. Jun 11, 2022 2:50 PM - 3:50 PM 第1会場 (国際会議場 メインホール)

座長:丹山 直人(一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院)
演者:木澤 晃代(日本看護協会)

2:50 PM - 3:50 PM

[SL4-01] クリティカルケアは病院収益にどのような意味をもたらすのか

○木澤 晃代1 (1. 日本看護協会)

Keywords:クリティカルケア、医療の質

近年の医療制度改革や地域医療構想により、病床機能の分化、連携を進めるための施設整備や、医療従事者の確保・養成等について施策が図られている。クリティカルケアは、高度で集中的な治療介入や、医療機器の管理、最重症の患者ケアという観点から、高度な臨床判断に基づく看護技術が必要である。その特殊性から、十分な人員の確保に加え、専門的な能力を有する看護師の配置が求められている。このように高度急性期においては、医療資源投入量が多く、高コストになる構造となっている。医療は診療報酬の影響が大きいため、経営的な視点が重要であり、空床を極力減らし、稼働率を上げること、平均在室日数の最適化、施設基準の算定率の増加、高難度手術件数の増加、長期入室患者の減少などを指標として効率的なベッドコントロールが必要である。これを達成するためには、医療の質を上げることが重要なポイントである。高難度の手術を受けた患者が合併症の発症がなく予定通り回復していくためには、看護師の細部にわたるケアが重要であるが、緊急入院の場合や、患者背景によってケアの方法は個別性があり、予測的にかつ早期に介入する必要がある。合併症の発症は、ICU AW(ICU-acquired weakness)やせん妄の発症など離床が遅れることによりリハビリも遅れ在室日数の長期化による収益の減少ばかりでなく、患者の予後や社会復帰に大きな影響を及ぼす。そのためクリティカルケアには、早期からRST(Respiration Support Team),NST, Nutrition Support Team ),RRS(Rapid Response Team),ICT(Infection Control Team),PUT(Pressure Ulcer Care Team)などといった横断的チームによる総合的な介入によって患者の回復過程に大きく貢献している。
一方で、一人の患者に多職種が集中的に関わることによって、それぞれの職種の専門性の主張から「患者にとっての最善」に対する意見の相違は散見されることであり、それぞれが考える「患者にとっての最善」のベクトル合わせを行う必要がある。これからの調整のキーパーソンとなるのは、クリティカルケアの専門的な教育を受けた看護師が最適である。ベッドコントロールに関しても患者の回復状態を多角的な視点で判断し、診療科間や看護師間の調整、患者家族や情報共有によって円滑な移動につながる。また患者家族の満足度も医療の質の重要な視点である。特にクリティカルな状況では、患者の医療依存度が高い状態であり、家族間の心理的距離や精神的、経済的な負担も大きいためケア介入は重要である。クリティカルケアに携わる看護師は、やりがいがある一方で生命維持装置の管理や、患者の生死に近いことに関連する極度の緊張が持続することによって喪失感や無力感を感じ、職務を継続することが困難な場合も少なくない。勤務環境の調整や働き方の多様化など、持続可能な労務管理が必要である。また、クリティカルケア領域の看護師が自立的に職務ができるまでには時間を要するが、段階的な教育によって技能を取得する仕組みがあることによって、看護師が安心して働くことができ、ひいては患者の安全に繋がる。
このようなことから、医療機能の高度化や増床といったハード面の整備だけではなく、それを活用する医療人材の育成、連携強化といったソフト面を整え、医療の質を上げることが地域に求められる病院となり、結果的に収益に貢献することにつながるといえる。