第18回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY6] クリティカルケアの実践に倫理の基盤を築く

2022年6月12日(日) 09:00 〜 10:20 第8会場 (総合展示場 E展示場)

座長:林 優子(関西医科大学)
   大野 美香(国立病院機構名古屋医療センター)
演者:長岡 孝典(独立行政法人国立病院機構 呉医療センター)
   藤本 理恵(山口大学医学部附属病院)
   乾 早苗(金沢大学附属病院 看護部 ICU)
   餘永 真奈美(一般財団法人平成紫川会 小倉記念病院)

09:00 〜 09:25

[SY6-01] 救命救急センターにおける倫理的感受性、課題解決能力の醸成に向けた取り組み

○長岡 孝典1 (1. 独立行政法人国立病院機構 呉医療センター 救命救急センター)

キーワード:倫理的感受性、倫理教育

クリティカルケア領域では、意思決定支援や身体抑制、治療方針に関する対立など、様々な倫理的課題に直面することが多い。その中で、倫理的課題に「気づく」ということが重要である。しかし、「倫理」という言葉を発すると、現場のスタッフたちはたちまち困ったような顔をしているのをよく目にする。その背景として、多くの看護師が日々多忙な業務に追われる中で、「何かがおかしい」と感じながらも、倫理的課題の本質に気づき、課題解決に向けた話し合いを行う機会に繋げていくことは困難なことが挙げられる。そのため、まずは何が倫理的課題であるか気づくために必要な知識と、それを他者と冷静に対話でき、対話した内容を客観的に分析できる能力を育成していくことが必要となる。この能力こそが倫理的感受性であり、倫理的な行動に繋がっていく。倫理的行動の要素としては、以下の4つが挙げられる。①臨床における倫理的問題がそこに生じていることに気づく力(倫理的感受性)、②それが倫理的に問題である理由を説明できる力(倫理的推論)、③様々な障害を乗り越え、倫理的に行動しようとする力(態度表明・態度決定)、④状況の中で倫理的行為を遂行することのできる力(実現・実施)の4つである。しかし、臨床の中での上記の4つの要素を考慮しつつも、一人で倫理的課題解決を進めていくことは極めて困難である。その背景として、対立するそれぞれの価値観や意見の多様性が考えられる。それらを踏まえ、倫理的場面と感じた場合、それを周囲に伝え意見を共有することで、お互いの倫理的感受性の感度を高め、医療チーム全体で倫理的課題を共有し、介入していくことが重要である。
 A病院では、2021年より積極的に看護師の倫理教育へ力を入れている。院内の教育ラダーに沿って、看護師の段階別達成度や期待される役割に沿って研修目的・目標を設定し、教育計画を行っている。昨年度は課題の一つとして、各部署内で倫理的課題に関する倫理カンファレンスを実施し、行った検討内容を集合研修内で話し合う取り組みを企画・実施した。私自身、救命救急センタースタッフの倫理的感受性を高めることに焦点を当て、部署内で活動を行った。具体的な活動として、救命救急センターの看護師へ看護倫理に関する基礎的知識や倫理カンファレンスの進め方について勉強会を実施した。勉強会では、看護師が感じる白黒はっきりしないモヤモヤ、葛藤に対しJonsenの4分割表を用いて情報を整理、解決するための思考過程について伝えた。また、倫理カンファレンスへ介入し、患者の意思決定支援や救急領域における終末期ケアに関する内容などを取り上げ、部署全体で倫理的課題について検討する取り組みを行った。今回の取り組みを通して、臨床の中で、スタッフの倫理的感受性を根付かせていくために、その疑問が倫理的な気づきであることを意図的に導いていくことが重要であると感じた。臨床倫理教育を考えていく上で、集合教育と分散教育の連携を考えていくことがより効果的である。しかし、実際の活動を通して、臨床現場で抱える倫理教育に関する課題も見えてきた。救命救急センター看護師の「倫理」に関する捉え方に個人差を感じることもあり、倫理的思考の整理の必要性や多職種を交えて合同カンファレンスを開催するなど、倫理教育に対する課題への介入が必要である。
 今回のシンポジウムでは、私の従事する救命救急センター看護師の倫理的感受性を高め、課題解決思考の醸成へ繋げるために行った取り組みとその結果の詳細、今後の課題について考察し、皆さんと倫理教育についてディスカッションしていきたいと考える。