第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

教育講演

[EL1] 侵襲に対する生体反応のメカニズムの学び方・活かし方

2019年10月4日(金) 14:10 〜 15:10 第1会場 (2F コンベンションホールA)

座長:三上 剛人(吉田学園医療歯科専門学校)

[EL1] 侵襲に対する生体反応のメカニズムの学び方・活かし方

道又 元裕 (国際医療福祉大学・成田病院準備事務局)

救急医療・看護は侵襲性の高い救急疾患を有する人々が対象であり、その対象は侵襲刺激によりカタストロフィ(恒常性の破綻)に至り、激しい生体反応を示すことがあります。
侵襲(invasive)とは、生体に何らかの刺激が加わり生体の何れかが広い意味でのinjury(傷害、損傷)を受けたことを意味しています。
侵襲による生体反応は凡そ多くの疾病などの病態生理の基本を成しています。したがって、医療を行う者は、侵襲による生体反応の特性を理解したうえで低侵襲的、非侵襲的(non-invasive)医療・看護の実践が重要です。
侵襲に対する生体の理解は、機能面のトータルアセスメント、医療・看護行為の影響の大きさ、心身の相互作用などを理解することに寄与します。その理解のための学びは、可能ならばその特性について、表層的な理解に留まることなく構造的(本質的)に理解することが望まれます。
侵襲の概念
侵襲とは、「生体の恒常性に破綻をきたす危険のある内外の刺激とその刺激に対して生体が恒常性を保つために対処する生体反応」と定義づけることができます。それは、生体の内部環境を乱す、あるいはその可能性のある外部と内部からの刺激であり、ストレスとなる因子(ストレッサー)を意味しています。
侵襲刺激に生体が反応する過程と結果が「ストレス反応」であり、種々の外部・内部の刺激が生体にとって負担として働くとき、心身の安定した状態に負の変調をきたしてしまいます。
生体反応とホメオスタシス
侵襲を受けた人々は、回復過程の際に、個の程度の差こそあれ共通した状態と変化を生じ、様々な生体反応を惹起します。この種々の反応は生体の内部環境を整えようとする正常なはたらきであり、それは外的な刺激に対する生体防御反応ともいえます。もし、生体がこの防御反応を起こすことができなければ、体内の恒常性(ホメオスタシス)を保つことができなくなります。
生体反応と全身システムの変調
外科的侵襲に対する生体反応は、生体内で極めて複雑多岐にわたる変化を繰り広げながら、様々なシステムの変調をきたします(神経-内分泌、免疫応答、凝固系、酸塩基平衡の変調、耐糖能異常(高血糖)、血管内皮機能の変調(血管透過性亢進)、呼吸・循環動態の変調をはじめとして、末梢皮膚をはじめとした組織間における非機能的細胞外液の増加(浮腫)、乏尿、発熱などが現れます。これらの症状は、生体の中で起こっている変化のほんの一現象にしか過ぎなく、また、それは終息を示す結果ではなく、ひとつ一つの変化がさらなる引き金となって全身性の生体反応を起こします。また、侵襲からの回復過程において、敗血症などの重篤な合併症の併発などに苛まれると、容易に低栄養、免疫能低下、凝固線溶の変調をきたし、進行するとMODS、MOF)へと進展悪化する場合もあります。
これらの特性を有する侵襲に対する生体反応のメカニズムを学ぶためには、以下の項目について理解することです。
①ホメオスタシス(神経・内分泌システム)
②代謝・水分調節(栄養代謝、高血糖の影響、体液調節と移動)
③炎症反応の調節(化学伝達物質の働きと血管透過性亢進、痛み、発熱、凝固・線溶系
④免疫応答調節(炎症と免疫細胞、情報伝達物質の働き)
⑤呼吸調節(酸素代謝)
⑥循環調節(ショックのメカニズム、末梢循環の仕組み)
その学びを如何に活用するかは概ね以下のような項目を回避することにあります。
①交感神経の過剰興奮の持続
②極端な循環動態管理
③末梢循環を軽視した体液管理
④過剰な酸素投与
⑤医原性低酸素状態の形成
⑥医原性の物理的損傷
⑦過剰な酸素消費量の増大促進
⑧代謝亢進につながる全身管理
⑨悪循環の経腸栄養管理
⑩感染に導く血糖管理