第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

教育講演

[EL12] Society 5.0 for SDGsが開く救急医療の展望

2019年10月5日(土) 13:30 〜 14:30 第4会場 (3F 中会議室301)

座長:明石 惠子(名古屋市立大学)

[EL12] Society 5.0 for SDGsが開く救急医療の展望

奥寺 敬1,2,3 (1.富山大学大学院危機管理医学(救急・災害医学), 2.第26回日本航空医療学会会長, 3.第14回日本病院前救急診療医学会会長)

Society(ソサエティー) 5.0 は、日本国政府が提唱する未来社会のコンセプトで、第5期科学技術基本法(2016-2020)のキャッチフレーズである。5.0の意味は、これまでの人類の歩みを、狩猟社会(Socity 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society 4.0)と位置付け、その先に来るデジタル革新、イノベーションなどを実現する社会を意味する。代表的そして象徴的なシンボルは人工知能(Artificial Intelligence:AI)とドローンであり、内閣府など政府の広報にしばしば登場する。同様の概念は、ドイツの製造業のサイバーフィジカルシステムによるスマートファクトリー化を推進する Industry (インダストリー)4.0(第4次産業革命)、中国政府の掲げる製造業振興策である中国製造2025、米国GE社のインダストリアルインターネットとして各国が競い合って示している。また、Socity 5.0 現存する社会の諸課題を解決するという意味で、国連が提唱する「持続可能な開発目標 SDGs」(Susteinable Development Goals)をゴールとして目指すと位置付けており、「Society 5.0 for SDGs」として用いられることが多い。
 医療においては、個人レベルのバイタルサインや検査データ、各種薬剤の治療成績、診断群分類包括評価DPCのデータなどを一元化し、AIを用いることで、生活支援、制癌剤の選択など幅広く応用することで、すでに様々な実証研究が進んでいる。ドローン技術も急速に向上しつつあり、様々な領域において開発導入研究が進んでいる。これらは各関連学会(医学系でない学会がむしろおおいので要注意)にそれぞれの研究集団から発表されており、事例によっては医療関連であるにも関わらず、全く医療関係者の関与していない実証実験が増加傾向にあり、実証段階での齟齬が懸念される。
 救急医療においては、人工知能の導入は、すでに各学会で演題として散見されるが、身近な例として埼玉県で実証実験がののち7月19日より本格運用が開始される(予定)の「埼玉県AI救急相談」があげられる。これはNECによるチャットボットを用いた救急相談の支援システムであるが、既存のいくつかのテンプレート(救急電話相談などの)が影響を与えていることは事実である。また、AIの学習により高度化した場合、従来の看護師による救急電話相談との住み分けを検討する必要がある。ドローンは、すでに原子力発電所の監視や海難救護、山岳遭難などへの応用が実証段階にある。救急現場、災害現場におけるドローンの存在は、我が国のドクターヘリシステムの障害となる可能性があり、すでに日本航空医療学会の委員会を中心として救急・災害時のドクターヘリとドローンの安全な共存活用に向けたプラットフォームづくりが進行している。交通事故においても、自動事故通報システム(ACN、AACN、D-Call Net)による通報や事故の解析、ドクターヘリシステムとの接続、検討中であるドクターカーシステムとの接続などの制度設計、事故解析アルゴリズムへのAIの導入など、救急医療、そして救急看護を取り巻く環境は、人口減少・高齢過疎化社会において、迅速な進化を求められている。これら我が国の社会情勢の変革の現状を共有し将来展望を考察したい。
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