第21回日本救急看護学会学術集会

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教育講演

[EL8] 口腔内バイオフォルム細菌による身体機能障害

Sat. Oct 5, 2019 1:30 PM - 2:30 PM 第2会場 (2F コンベンションホールB)

座長:田戸 朝美(山口大学大学院)

[EL8] 口腔内バイオフォルム細菌による身体機能障害

奥田 克爾1, 成田 賢二2 (1.東京歯科大学名誉教授, 2.獨協医科大学埼玉医療センター非常勤歯科医師)

口腔内には千種類を超えて数千億に達する細菌が、コミュニケーションを取りながらバイオフィルムとなって住み着いている。デンタルプラークは、数百種類の細菌が多彩な付着能力を持って歯面に定着し、スクラムを組んで足場を築いてへばり付き多細胞のモンスターのように振る舞う厄介な細菌集団である。歯垢などともいわれるが実体は、100%が菌体とグリコカリックスと言われる粘着性多糖体を纏っているバイオフィルムである。また、舌、口蓋、咽頭にもそれぞれ複数細菌からなる固有のバイオフィルムが存在する。救急医療を受ける患者には、唾液に混入した口腔内バイオフィルム細菌の頻繁な誤嚥が見られ、気管支や肺に入り込み誤嚥性肺炎を起こしてしまう。また、気管内挿管チューブに作られる口腔内細菌のバイオフィルムは、混合感染VAPを主としたデバイス関連院内感染の原因となる。気管内挿管中は、自らのバイオフィルム集団の清掃は難しいため、現場での口腔清掃を中心とした口腔ケアで口腔内バイオフィルム細菌を制御することが不可欠となる。本教育講演では、口腔内バイオフィルムの形成メカニズム、その特性を知った上でのメカニカル除去に加えて、抗菌性洗口液について解説する。
 デンタルプラークなどの口腔内細菌の栄養源は食べ物の残りなどと間違った認識を持たれているが、唾液や絶え間なく口腔内入り込んでいるアミノ酸やグルコースが豊富な体液成分である。デンタルプラーク1 mgには、億単位の細菌が算定される。その平均的な分裂は2-4時間に1回で、救急医療を受ける患者の口腔内細菌の増加は、口から食事を摂る人に比べて著しい。したがって、救急医療の患者ほど口腔内細菌の除菌を中心とした継続した口腔ケアが必要である。
 歯科界は8020運動で歯を残すキャンペーンを続けている。多くの歯があることによって咀嚼機能などが維持されフレイルに陥らせないことが示されてきた。一方、歯が多く残ることによって口腔内の細菌数が増えてしまう。歯周病などがあると口腔内細菌数は、数千億に達する。これらは、高い死亡率の誤嚥性肺炎肺炎を引き起こしている。また、口腔内バイオフィルム細菌は、蛋白質分解酵素やノイラミニダーゼを産生してインフルエンザウイルスに加担するようになる。
 歯周ポケット内の嫌気性桿菌やスピロヘータなどの菌体や内毒素は、歯肉上皮を貫通して血流に侵入して血管内皮細胞に入り込んで動脈内壁プラーク形成、動脈硬化をもたらす。それらは、人工関節などの医療デバイスに付着してバイオフィルムを形成することも少なくない。さらに、腎糸球体、関節腔、大腸がん、アルツハイマー病の脳内にも検出されている。
 機械的清掃を凌駕するデンタルプラークなどの口腔内細菌を減らす手段はないため、大きなマンパワーが要求される。救急医療では、口腔清掃器具の使用などに専門スキルのある歯科医師や歯科衛生士との連携が不可欠である。口腔領域全体の除菌には、抗菌性洗口液の使用は有効な手段となる。非イオン性のポビドンヨード液やエッセンシャルオイルからなるリステリン液は、口腔内バイオフィルムに浸透性を示して短時間内で殺菌性を発揮する。他方、イオン性のグルコン酸クロルヘキシジンや塩化セチルピリジウムなどは、バイオフィルム表面に付着して比較的長時間にわたって静菌的作用を示す。
 救急医療現場における継続した口腔ケアの実施が不可欠であることを裏付けるべく、暗殺集団の口腔内バイオフィルム細菌の生態について解説する。