第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

災害看護

[O10] O10群 災害看護

2019年10月4日(金) 16:20 〜 17:10 第8会場 (1F 中会議室102)

座長:大村 正行(岡山赤十字病院 救命救急センターICU)

[O10-3] 黒エリア災害訓練が2ヶ月後における身体・精神面に与える影響

園田 真利子, 阿部 嘉晃, 畠中 真由美, 大脇 吉子, 山本 むつみ, 髙間 辰雄, 吉原 秀明 (鹿児島市立病院救命救急センター)

【目的】災害拠点病院A病院では、災害による犠牲者及び家族対応を行う黒エリア訓練を実施し、参加者100名の中で身体的変化25名、精神的変化44名に症状が出現していたことが分かった。2ヶ月後に訓練が参加者に及ぼした身体的精神的影響を明らかにする。【方法】訓練に参加した100名を対象に無記名自記式で調査し、単純集計後分析した。調査内容は訓練直後と同様で、2ヶ月後の身体的精神的変化はどのような場面で表出されるのかという設問を追加した。いずれも医療者である身体的精神的症状を来した参加者を、①見学者②ケアをする役③ケアを受ける役に分けて分析した。当院倫理審査委員会の承認を得た。【結果】有効回答は52名、訓練演者(ケアをする役とケアを受ける役):20名(39%)見学者32名(61%)であった。訓練を想起し身体的精神的変化を来した参加者は8名:15%(いずれも女性看護師、見学者5名、参加者3名:黒エリア担当1名・搬送班1名・家族役1名)で災害訓練直後よりも大幅に減少していた。症状は「不安」「無力感」「何度も思い出す」「心理士のストレスを考えると気分が沈んだ」「流涙」「食欲低下」「悲しみ」であった。これらは2ヶ月間でテレビやニュースを見たり、職場で遺体ケアに携わったときなどのイベント時に症状が出現していた。一方で、今後の黒エリア訓練実施に対しては、7名が再参加を希望していた。残りの1名は「訓練は必要だと思うが家族対応に無力感が残る」という回答であった。精神的変化の継続者は、今回の訓練だけで引き起こされたのか、もともとの個人的な背景や心身の状況が関連しているのか今回は聴取できなかった。【考察】参加者(①見学者②ケアをする役③ケアを受ける役)の役割ごとに、身体精神的症状を来した点に注目し考察した。①見学者5名は、自分の身に置きかえ、同じ医療者として訓練演者にたいして同情や感情移入した事が考えられる。訓練演者へのシナリオが充実しており、想定以上にリアリティーのある内容に圧倒され、印象づいたことが影響していると考えられる。②ケアをする役2名(黒エリア担当・搬送班各1名)は、連続した死を待つケアは連続した無力感を医療者へ与え、実際に自分が体験するかもしれない役割であることへの感情移入が考えられる。③家族役1名に精神的変化があったのは、事前に役設定を行い、リアリティーを出すために役になりきることで感情移入したことが考えられる。本訓練は、黒エリアに限定したため、事前に身体的精神的影響が出現することを想定し、参加を強制せず、時間制限を設定し、途中離席が可能であることを呼びかけて開催された。しかしながら本訓練の経験者は、訓練直後だけでなくその後の日常で経験する遺体ケアなどが機会となって訓練時の感情が思い出されることがわかった。黒エリア訓練は、精神的にも負担がかかる訓練であるが、南海トラフ等の大規模災害時には必ず直面する事象である。黒エリア領域の災害訓練は、①勤務交代が必須であるエリアであること。②黒エリア対応者は平時からのセルフケアと、グリーフケアの対応力を身に付ける必要があること。③精神科や臨床心理士のサポートを受けられるようにする環境を整えること。以上を想定しながら訓練内容を計画していく必要がある。