第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

重症患者看護

[O21] O21群 重症患者看護②

2019年10月5日(土) 10:10 〜 11:00 第8会場 (1F 中会議室102)

座長:桑村 直樹(公益社団法人日本看護協会 看護研修学校)

[O21-1] 救急医療施設における看護師の摂食嚥下機能評価に関する認識の実態

比田井 理恵, 加藤 弘美, 今関 加奈子, 菅沢 直美, 辻 守栄, 樋口 恵美 (千葉県救急医療センター)

1.目的
 高齢患者の増加とともに、複合疾患による入院や気管挿管の長期化、絶飲食などから咽頭喉頭機能の低下・障害を来たす患者も多い。安全性やQOLの視点からも摂食嚥下機能を適切に評価し、安全かつ楽しみにもつながる経口摂取に向けて支援することが看護の課題である。A救急医療施設では摂食嚥下の可否に関する判断を看護師が行うことがあるが、系統だった評価・判断基準はなく、看護師個々の知識や経験に委ねられている。そこで、本研究は看護師が行っている摂食嚥下機能に関する評価と支援の実態を調査し、その認識を明らかにすることを目的とした。

2.方法
1)対象:A救急医療施設で患者の摂食嚥下機能の評価や支援に携わる全看護師(管理職含む)
2)調査方法:質問紙調査
3)調査期間:平成30年7月の2週間
4)調査内容:質問紙は、言語聴覚士の助言をもとに独自に作成したものを使用した。設問内容は、①調査協力者の通算看護師経験年数、②これまでの摂食嚥下機能に関する学習の機会の有無と内容、➂摂食嚥下機能評価の対象、④摂食嚥下可能と判断する基準、⑤摂食嚥下機能の評価・支援に必要となる12項目(Ex.覚醒度とその維持、呼吸状態の確認、食物の認識に関する確認、頸部後屈の予防、口中の食残確認など)の実施の程度、⑥摂食嚥下機能評価やケアへの困難感の有無、⑦摂食嚥下機能評価やケアの不明点の7項目を設問とした。   
5)分析方法:単純集計の実施。質的データについては質的帰納的分析を実施した。
6)倫理的配慮:質問紙は無記名回答とし、アンケートへの回答をもって調査への協力に同意したものとした。本調査への協力は任意であり、強制されるものではないことを保障し、院内倫理委員会の承認を得て実施した。

3.結果
 116名から回答を得た。回答率は64.4%で、回答者の看護師経験年数の内訳は、0~5年未満が23名(19.8%)、5~10年未満が27名(23.3%)、10年以上が66名(56.9%)であった。過去に摂食嚥下機能に関する何らかの学習の機会を得た者は74名(63.8%)であり、看護師経験年数の高い者の割合が低かった。摂食嚥下機能について「評価する必要がある」と判断する対象は、【脳神経系疾患患者】【意識障害】【ムセのある患者】【挿管や呼吸器管理が長期化した患者】などの回答が多かった。「摂食嚥下が可能」と判断する指標としては、【ムセがない】【覚醒度が良い】【唾液などの水分を嚥下できる】の順に回答の割合を占めていた。摂食嚥下機能の評価・支援に必要となる12項目について、「いつも実施している」割合は【嚥下前・中・後のムセの確認】が91.4%と最も高く、【喉頭が上がっているかの確認】が30.2%、次いで【口腔内の観察とケアの実施】が31.9%と低い結果となった。

4.考察
 摂食嚥下機能評価を要する対象として、「脳神経系疾患患者」「意識障害がある」「高齢患者」などが挙げられ、一様に大きく捉える傾向にあった。これは、摂食嚥下機能障害のリスクが高い対象を焦点化して捉えきれていないことを意味すると考える。また、多くの研究協力者が“摂食嚥下が可能”と判断する指標として認識していたのが「ムセがない」ことであった。しかし、ムセがないことが必ずしも安全を意味するわけではなく、サイレントアスピレーションについての認識が低い可能性が示唆された。摂食嚥下機能の評価・支援においては、【口腔内の観察とケアの実施】の割合が低く、摂食前のケアが不十分な可能性がある。これらのことから、摂食嚥下機能評価における観察ポイントとその根拠への理解を深める必要性が示唆された。