第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

重症患者看護

[O22] O22群 重症患者看護③

2019年10月5日(土) 11:00 〜 11:50 第8会場 (1F 中会議室102)

座長:背戸 陽子(日本医科大学付属病院 医療安全管理部)

[O22-1] PICS予防のための非薬理学的な創部痛軽減方法

大内 心晴, 中村 香代 (独立行政法人国立病院機構災害医療センター)

はじめに
 術後、創部痛が軽減されず長期間に及ぶベッド上安静は、筋力低下や肺炎、イレウス等の身体機能障害や離床の困難感に伴う精神障害、せん妄の発症等の認知機能障害と言った集中治療後症候群(以下PICS)に陥る可能性がある。そのため、創部痛を軽減し早期離床を促進することは術後憂慮される問題である。
 今回A氏は術後、鎮痛薬の使用のみでは十分な鎮痛効果が得られず離床が遅延する可能性が考えられた。手術や離床に対して消極的な発言もあり、PICS予防の必要性を強く感じられた。そのため、自身で創部痛の軽減を図る非薬理学的方法を取り入れることでセルフケア能力を充足させた。そして、入院中の目標達成経験をA氏の強みにし、ICU退室後や退院後の生活の自己効力感向上を図ることでPICS予防を行った事例について報告する。
目的
 非薬理学的自己管理方法を取り入れ創部痛の軽減を図ることで、セルフケア能力の向上がPICS予防に与えた影響について検討する。
方法
 非薬理学的自己管理方法として山本や坂上らが提唱している呼吸法や離床時の腹部姿勢等の方法をバンドルとして取り入れる。セルフケア能力の変化と、PICS予防への影響について分析をする。
倫理的配慮
 報告するにあたり個人が特定されないように配慮することを説明し、患者本人より了承を得た。著者は、e-APRIN研究者コースを修了している。(修了者番号:AP0000206910)
結果
 術後1日目、「こんなに痛いなら手術しないほうが良かった。」等の手術や離床に対して消極的な発言あった。また、鎮痛薬使用以外の創部痛軽減方法がわからず、困惑した発言も聞かれていたため、非薬理学的方法を取り入れた。同日、「歩くときはこうすればいいんだね。」との発言あった。離床時、NRS:8から2に低下。ICU退室まで、創部痛の増強はなかった。また、今回の手術や離床に対して消極的な発言も聞かれなくなった。退院時、「ここでしっかり歩けてよかった。今回の手術を乗り切れたから今後何があっても乗り切れます。」と今回の入院経験がA氏の強みになったとの発言があった。
考察
 A氏は術後、自身で創部痛を軽減したいがその方法がわからないことや手術や離床に対して消極的発言があることからPICSに陥る可能性があった。オレムはセルフケアについて、「個人が生命、健康および安寧を維持するために自分自身で開始、遂行する諸活動の実践」と定義している。A氏も同様に、PICS予防のために自身での創部痛軽減方法がわからない、セルフケアが不足した状態であったと考えられる。そのため、非薬理学的方法を取り入れ、創部痛軽減方法を獲得したことで、自身で健康のための行動ができていた。このように、自身で創部痛を軽減する意欲があるという強みに看護師が介入し、対象の主体的な気持ちを支え不足した点を補完する関わりはセルフケア能力向上において有用である。また、A氏の発言にもある様に、セルフケア能力の不足という弱みは、後天的に能力が向上し、目標達成経験を通すことで人生における強みへと変化する。そして、その強みが入院中の精神的支柱になることや離床が促進され身体状況の改善にも良い影響を及ぼすと考えられる。退院後も、その経験が強みとなり様々なライフイベントに対応がでることや筋力低下等を防げたことから、もともとの生活にスムーズに適応することができると考えられる。それらのことから、患者と看護師の関わり合いでセルフケア能力が向上し、目標達成経験を得ることは、ICU退室後、退院後の対象の強みとなり、PICS予防において有用である。