第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

トリアージ

[O30] O30群 トリアージ④

2019年10月5日(土) 14:20 〜 15:20 第9会場 (1F 中会議室103)

座長:西尾 宗高(杏林大学医学部付属病院)

[O30-6] S状結腸穿孔をきたしていた膵線房細胞癌が既往にある患者の院内トリアージ

石原 寿宏, 白石 尚子, 鈴木 好, 五十嵐 裕司, 石塚 久美子 (小田原市立病院救急センター)

【はじめに】

当病院では、独歩患者に対しトリアージ看護師がJapan Triage and Acuity Scale(以下JTAS)を使用し院内トリアージを実施している。今回、S状結腸穿孔をきたしていた膵線房細胞癌が既往歴にある患者が来院し、腹痛を主訴とした院内トリアージを実施した。本報告では院内トリアージを行う上でトリアージ看護師がさまざまな情報を得た上でその情報を解釈し医師の診療に繋げていくことの重要性を学んだため報告する。

【倫理的配慮】匿名化し、情報管理を徹底した。

【症例】

 A氏40歳代女性。膵線房細胞癌の既往があり、主訴は左下腹部の疼痛、嘔気と電話連絡あり。

 A氏は膵線房細胞癌、転移性肝腫瘍の既往と第10胸椎転移性脊椎腫瘍に対して減圧術と放射線治療で当院に前日まで入院していた。来院時、腹部を抑え当院の車椅子を利用していた。第一印象で重症感はなかったため、その場で問診と同時にバイタルサインの測定を実施した。問診で退院後A氏のADLは自立しており、車椅子を利用するような状況ではなかったとのことだった。また、排泄直後に突然腹痛が出現したとのことだった。バイタルサインは体温36.7℃、呼吸数26回/分、脈拍数117回/分、血圧108/68mmHg、SPO2:98%であった。このことからトリアージを直ちに中断し蘇生室に移動した。蘇生室に移動後、モニタリングを開始し医師に診察依頼。静脈路を確保し採血実施後、輸液を開始した。その後腹部の造影CT検査を施行。S状結腸周囲に遊離ガスと骨盤内に腹水貯留を認め、外科医師へコンサルトし緊急手術、S状結腸穿孔と診断され同日入院となった。内服歴には非ステロイド性消炎・鎮痛剤を定時で内服していた。

【考察】

 今回の症例は、電話連絡の時点で既往歴に膵線房細胞癌があることで腹痛は癌性疼痛による痛みが原因ではないかと考えた。また膵線房細胞癌により嘔気の出現が関係しているのではないかと考えた。

第一印象で重症感はなかった。しかし、問診より腹痛をOPQRST法で評価を行った際、O(発症様式)は排泄後突然でありP(増悪・寛解因子)増悪と寛解因子はなしQ(症状の性質・程度)はNumerical Rating Scale(以下NRS)8/10の痛み、R(場所・放散の有無)は左下腹部を中心とした疼痛があり放散痛はなし、S(随伴症状)は嘔気、T(時間の経過)は持続している激しい疼痛があるとのことだった。突発的で症状が持続していることから緊急性が高いと判断した。またバイタルサイン上、脈拍117回/分であることから循環不全を考慮するとともに呼吸26回/分と随伴症状の嘔気から呼吸性代償のアシドーシスを考慮した。このことから直ちに蘇生室へ移動しモニタリング開始、医師の診察に至った。

 消化管穿孔で特に大腸の穿孔では、一度穿孔を起こすと糞便性汎発性腹膜炎を併発しエンドトキシンショックや敗血症などの理由により重篤に陥りやすく死亡率が高いと言われている。つまり消化管穿孔は、判断が遅れることで患者の予後に影響する緊急度の高い疾患であると言える。そのため、今回、問診と同時にバイタルサイン測定を行った際、院内トリアージを中断し直ちに蘇生室へ移動したことは適切な判断であったと考えられる。

【結語】
トリアージ看護師はトリアージを行うプロセスにおいて、発症様式、痛みの強さと持続時間、随伴症状、既往歴、バイタルサインなどの情報を得た上でハイリスクの基準を満たしているのかどうかを解釈し、医師の診断につなげていくことが重要である。