第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

救急外来システム

[O6] O6群 救急外来システム

2019年10月4日(金) 16:20 〜 17:10 第7会場 (3F 中会議室304)

座長:溝江 亜紀子(東京医科歯科大学医学部附属病院)

[O6-5] 救急外来における高齢者患者の看護実践上の倫理的課題

前田 晃史1, 武村 佳奈子2, 本田 可奈子3 (1.市立ひらかた病院, 2.滋賀医科大学医学部附属病院, 3.滋賀医科大学)

目的

 わが国の高齢者人口は増加の一途をたどり、2025年には30%を超えると推測され、高齢者の増加に伴い、救急搬送される高齢者も増加している。救急外来の高齢者に対して、倫理的問題が生じていると考えるが、その内容は明らかとなっていない。本研究では、救急外来で高齢者患者に対する倫理的課題を明らかにし、今後も増加する救急外来における高齢者患者に対する看護ケアの質向上に資することを目的とする。

方法

研究デザイン:質的記述的研究である。研究参加者:近畿圏内に所在する一次から三次救急医療を担う救命救急センターに勤務する救急経験1年以上かつ看護師経験5年目以上の経験を有する看護師10名である。調査期間:2018年6月4日~8月24日であった。データ収集方法:インタビューガイドに基づいた半構成面接法を実施し、研究参加者の同意を得た上で、面接内容をICレコーダーに録音した。インタビューガイド:救急外来で高齢者への尊厳や人権を守ったあるいは損なった経験、それらについて感じたこと、具体的に行った対応とした。分析方法:面接内容を基に逐語録を作成し、倫理的問題についてコード化、カテゴリー化を行い、各カテゴリーについて考察した。信憑性・真実性を高めるためにメンバーチェッキングを行い、分析過程において、研究チームでディスカッションをし、質的研究の専門家にスーパーヴィジョンを受けた。

倫理的配慮

本研究は、A大学倫理委員会の審査を受けて学長の許可を得て実施した(番号:29−301)。

結果

救急外来における高齢者の倫理的問題として、15のサブカテゴリーと5のカテゴリーが生成された。カテゴリーは【高齢ゆえに欠いてしまう配慮】【認知症を理由に不適切な対応】【高齢者への過度な救命処置】【高齢者の救命と安全優先で損なう尊厳】【実践できない高齢者への終末期ケア】が生成され、救急外来における高齢者の倫理的問題が明らかとなった。

考察

 高齢ゆえに欠いてしまう配慮】では、看護師は、緊急性の高い患者を優先し、高齢者へは医療者の業務を優先した対応や看護師の高齢者に対する決めつけによって羞恥心への配慮を欠いた対応が示された。【認知症を理由に不適切な対応】では、看護師は認知症高齢者は人間性を失っているなどの偏見を持ち、認知症高齢者の人権を損なう傾向にあることが示された。【高齢者への過度な救命処置】では、看護師は、蘇生困難な高齢者に対して、家族の希望で蘇生処置を継続され、患者が傷つくことを倫理的問題としてあげていた。【高齢者の救命と安全優先で損なう尊厳】では、挿入されたチューブ類が高齢者に抜去されないように抑制したり、転倒予防のためにプライバシーを侵害する行為が示された。【実践できない高齢者への終末期ケア】では、看護師は、高齢者の終末期にふさわしい環境やケアが提供できない救急外来の喧騒な中で高齢者を看取ることを倫理的問題としてあげていた。救急外来の高齢者に対する倫理的問題が生じる原因として、第一に患者を救命すること、急病者に即座に対応することを何よりも優先するという救急の特徴が、医療者に患者の尊厳を損なっても仕方がないという価値を持たせたことが考えられた。第二に、看護師の高齢そのものに対する医療者の認識不足が原因となっていることが考えられた。今後の課題として、高齢者への理解を救急看護として深めるために、高齢者の専門知識を持つ看護師とともに高齢者看護について学習会を定期的に行うことや、倫理カンファレンスなどを定期的に開催し、常に倫理的実践を振り返れる機会をシステムとしてもてるようにするなどの必要性が考えられた。