第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

医療安全

[O7] O7群 医療安全

2019年10月4日(金) 10:30 〜 11:20 第8会場 (1F 中会議室102)

座長:杉本 環(日本大学医学部附属板橋病院)

[O7-4] 記録記載のルーチン化によるPrimary Surveyの学習効果の検討

伊藤 敬介, 大麻 康之 (高知県・高知市病院企業団立 高知医療センター)

【はじめに】1996年、Goldhillらは、生理学的異常の出現した病棟患者に対応することで、院内心停止が30.4%から3.6%に有意に低下すると報告している。つまり、病棟で勤務する看護師には、患者の生理学的異常を早期に発見し、院内心停止を未然に防ぐための対処行動が求められる。A病院では、2014年4月より「患者急変対応コースfor Nurses」(以下、KIDUKI)を定期的に開催し、生理学的異常の発見のためのPrimary Survey(以下、PS)を教授してきた。2018年3月までに248名の看護師がKIDUKIを受講した。しかし、2018年9月までの院内救急コールが発動された急変発見時の看護記録には、PSに関する記載が皆無であり、急変発見時のPSが定着していないことが明らかとなった。そこで、PSの定着を目的に、2018年10月以降に、各病棟での一定の基準を設け、それに該当する患者のみ生理学的異常の有無にかかわらず、PSに関する記録を1回/日、日勤帯で記載するルーチン化を開始した。今回、その取り組みによるPSの学習効果を検証したので報告する。
【目的】記録記載のルーチン化によるPSの学習効果を明らかにする。
【方法】ICU、SCUおよび6つの一般病棟、合わせて計8部署の看護師に対して、PS記録の記載方法とルーチン化に関する研修を実施し、記録記載のルーチン化を開始した。その後の対象患者に対するPSの記録記載率と、院内救急コール発動時の記録を分析する。シミュレーションによって急変発見時にPSを実施する行動変容があるかを分析する。
【倫理的配慮】A病院の看護局倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】2019年1月の8部署全体でのPS看護記録の記載率は92%(記載あり746件/対象数812件)であり、記載内容も適切であった。2018年10月以降のCPA事案を除く院内救急コール発動時のPS看護記録の記載率は、73%(記載あり8件/対象数11件)であり、記載内容も適切であった。8部署のうち5部署を対象として、急変対応のシミュレーションを実施した。急変発見時にはPSを実施することを事前に指導せず実施したシミュレーションにおいて、全ての看護師がPSを実施しなかった。急変発見時にはPSを実施することを指導した後のシミュレーションでは、全ての看護師がPSを実施した。ただし、PSにおける観察や評価、蘇生の技術に関しては、未熟な点が多くみられた。
【考察】PSの記録記載は一般化しつつあり、記載内容も適切であることから、記録のルーチン化を図ることは、PSに関する「言語情報」の習得に効果があると考えられる。また、急変発見時の記録にもPSの言語情報を応用して適切に記載することができつつあることからも、PSに関する「知的技能」の習得には効果があると考えられる。しかし、シミュレーションにおいて、PSの観察・評価方法や蘇生方法は未熟な点が多く見られたことから、「運動技能」の習得には効果がないと考えられる。また、シミュレーションにおいて、自発的にPSを実施する行動が起こせないことから、PSに関する知識を行動に転移する「態度」の習得についても効果がないと考えられる。
【結論】
・記録記載のルーチン化は、PSの「言語情報」「知的技能」の習得には効果があった。
・記録記載のルーチン化は、PSの「運動技能」「態度」の習得には効果がなかった。
【課題】KIDUKIで学習したPSを実務に転移するには、記録記載のルーチン化にくわえ、「運動技能」「態度」の習得を目指す取り組みが必要である。