第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

看護実践・倫理・その他

[O8] O8群 看護実践・倫理・その他

2019年10月4日(金) 14:00 〜 14:50 第8会場 (1F 中会議室102)

座長:平尾 明美(神戸大学医学部附属病院)

[O8-3] 救命領域におけるDNAR決定後の看護ケアの実際

玉野 真鈴, 中田 哲也, 寺崎 順子 (獨協医科大学病院救命救急センター)

<目的>
我が国の医療現場では、いまだ患者の医療拒否権について明確な社会的合意が形成されておらず、2016年日本集中治療学会は「DNAR指示のあり方についての勧告」を発表したが、DNAR実施のガイドラインは示されていない。そこで、看護師の経験年数によって患者のケアや患者家族への関わり方に違いがあるのではないかと考え、DNAR決定後の看護ケアの実際を明らかにすることを目的とした。
<方法>
日本集中治療医学会倫理委員会が行った日本集中医療医学会会員看護師の蘇生不要指示に関する現状・意識調査を参考にDNAR決定後の看護の関りやDNAR決定後の看護ケアの頻度について独自にアンケートを作成し、実態調査を実施した。対象はA病院の救命救急センターに勤務する看護師48名とし、量的研究で行った。
<倫理的配慮>
人を対象とする医学系研究に関する倫理指針および日本看護協会の看護研究における倫理指針を遵守し遂行した。また本研究の実施に関しては、獨協医科大学病院の臨床研究審査委員会において承認を得て研究を行った。研究の対象者には、研究への参加は自由な意思であることを説明して実施した。
<結果>
救命救急センターに勤務している看護師48名にアンケートを配布し、41名から回答が得られた(回答率85.4%)。アンケート調査の結果、DNARの教育に関して回答者の63.4%が受けたことがないと回答していた。DNAR指示後の全身清拭や陰部洗浄、バイタル測定などはリッカートスケールで3.9点と多く行われていた。これに比較し、導尿や摘便などは3.2点と低い現状がみられた。また68.3%がDNARに関して何らかのジレンマを抱いているとの回答があった。救命看護師経験年数が短い看護師と長い看護師は、ジレンマや困難感を抱く割合が多く、患者や患者家族に対する対応だけでなく診療や方針に関してジレンマや困難感を抱くと回答していた。
<考察>
アンケート調査の結果、経験年数の長い看護師全員が、自ら学習を行ったことがあると回答しており、DNARに対する学習の必要性を感じている。「日本集中治療医学会倫理委員会が行ったDNARに対する意識調査では、「DNAR指示により、心停止時の心肺蘇生以外にも多くの治療が終了または差し控えられている」との報告があるように、DNARに対する認識の違いが、看護ケアの差につながると考えられる。アンケート調査の結果ではDNAR指示後も全身清拭や陰部洗浄、バイタル測定などの看護ケアが継続されていたが、導尿や摘便などは差し控えられることがあった。マズローの欲求5段階説では、欲求の第一段階は生理的欲求であると述べている。導尿や摘便などの排泄は、生理的欲求であり最後まで充実して行われる必要がある。そのためDNARに対する認識を統一するためには、部署内での勉強会の実施など学習機会を増やす必要がある。DNARに関するジレンマについて、救命看護師経験年数が短い看護師と長い看護師が抱いている。救命看護師経験年数の短い看護師は、経験の少なさから患者家族の対応などに困難感を抱くのではないかと考える。救命看護師経験年数の長い看護師は経験や知識により多角的なアセスメントを行う中で、患者家族の思いと治療方針などから生じる困難感を抱いているのではないかと推察した。診療や方針に関してのジレンマを解消するためには、多職種間で共通理解し、コミュニケーションを図る機会を設けるなどし、さまざまな視点から患者の希望も含めて補っていく必要がある。またそれは、経験の浅い看護師への教育機会にもなると考える。