[O9-3] 救急搬送された脊髄損傷患者が抱える性問題への一考察~青年期における性の悩みへの関わりの分析から~
Ⅰ:はじめに
脊髄損傷患者が抱える性の問題については、直接生命予後に関わらないため、救急看護の現場においては表面化されることが少ない。今回、青年期にある脊髄損傷患者から性への悩みが表出され、看護師として戸惑いながら関わった。この経験をもとに、今後のケアに役立てることを目的として、事例を振り返り考察したのでここに報告する。
Ⅱ:事例紹介
【氏名】A氏【年齢】青年期【性別】男性【診断名】脊髄損傷、多発肋骨骨折、血気胸 胸部以下知覚および運動なし【家族構成】両親、姉、結婚を約束していた彼女あり
Ⅲ:倫理的配慮
A氏へ症例検討の目的を文書と口頭で説明し、プライバシーの確保は慎重に行い、個人情報保護として個人を特定出来る表現を行わないことや、本件への協力は自由であり、拒否をしてもA氏に不利益が生じることはない旨を伝え、文書をもって同意を得た。また、B施設院内倫理委員会の承認を得た。
Ⅳ:看護の実際
患者は集中治療室で過ごし、一般病棟転棟後リハビリテーションを開始した。この頃、A氏は彼女と家庭を築くこと、こどもをもうけることなどの将来について、焦燥を感じていた。そしてA氏は、夜間に性衝動を抑えきれないことや清拭時などに性機能が保たれているかどうかを確認するなどで具体的な不安の感情を表出した。看護師は、A氏が性機能について悩み、つらい状況であることを初めて知った。この問題は、羞恥心を伴い、尊厳を傷つける可能性のあることとして、ごまかしたり、茶化さず真摯に向き合うことが必要だと考えた。A氏の性機能についての疑問には事実をありのままに伝え、反応をとらえていった。また、自己の経験を話したり、A氏の望んでいることを探りながら、向き合う時間を設け、傾聴的態度で接した。そして、問題解決に向けてA氏と一緒に取り組むことや、守秘義務を遵守することでA氏との信頼関係を崩さないように努めた。その結果、A氏は、悩みを吐露できる場ができ、素直な気持ちを表現することができるようになった。
Ⅴ:考察
A氏は、受傷により身体機能だけでなく、描いていた彼女との幸せな未来も喪失する可能性がある中で、家庭が築けるのか、彼女を幸せにできるのか、別れたほうがよいかなどの様々な苦悩を抱えていた。この苦悩は、生きる意味も含めた全人的苦悩ととらえられる。脊髄損傷受傷後のA氏にとって、彼女との結婚は「生きる希望」であり、別れは「絶望」であり、そのはざまで揺らいでいる状態ととらえられた。A氏の希望をつなぐためのカギのひとつが「性機能の維持」であり、それをA氏自身が確認することが「生きる希望」や「アイデンティティの確認」でもあったと考えられた。このような性の問題については急性期では表面化しにくいうえ、積極的に関わることは少ない。しかし、今回の振り返りにより、性衝動や性機能の有無の確認は、本能的な意味だけでなく、生きる希望を繋ぐための位置づけにもあったと考えられた。
青年期の脊髄損傷患者の性への悩みは、生きることやアイデンティティにも関連する大きな問題である。このような問題がとらえられ、関わりが持てたのは、看護師が患者のありのままを受け止め真摯に向き合う姿勢を維持したこと、また、同性としてA氏の希望は何なのかを探りながら応えたことなどで、本音を吐露できる関係が構築できたことが最大の要因と考える。このような問題を急性期からとらえ、患者を支えていく関わりが必要である。
脊髄損傷患者が抱える性の問題については、直接生命予後に関わらないため、救急看護の現場においては表面化されることが少ない。今回、青年期にある脊髄損傷患者から性への悩みが表出され、看護師として戸惑いながら関わった。この経験をもとに、今後のケアに役立てることを目的として、事例を振り返り考察したのでここに報告する。
Ⅱ:事例紹介
【氏名】A氏【年齢】青年期【性別】男性【診断名】脊髄損傷、多発肋骨骨折、血気胸 胸部以下知覚および運動なし【家族構成】両親、姉、結婚を約束していた彼女あり
Ⅲ:倫理的配慮
A氏へ症例検討の目的を文書と口頭で説明し、プライバシーの確保は慎重に行い、個人情報保護として個人を特定出来る表現を行わないことや、本件への協力は自由であり、拒否をしてもA氏に不利益が生じることはない旨を伝え、文書をもって同意を得た。また、B施設院内倫理委員会の承認を得た。
Ⅳ:看護の実際
患者は集中治療室で過ごし、一般病棟転棟後リハビリテーションを開始した。この頃、A氏は彼女と家庭を築くこと、こどもをもうけることなどの将来について、焦燥を感じていた。そしてA氏は、夜間に性衝動を抑えきれないことや清拭時などに性機能が保たれているかどうかを確認するなどで具体的な不安の感情を表出した。看護師は、A氏が性機能について悩み、つらい状況であることを初めて知った。この問題は、羞恥心を伴い、尊厳を傷つける可能性のあることとして、ごまかしたり、茶化さず真摯に向き合うことが必要だと考えた。A氏の性機能についての疑問には事実をありのままに伝え、反応をとらえていった。また、自己の経験を話したり、A氏の望んでいることを探りながら、向き合う時間を設け、傾聴的態度で接した。そして、問題解決に向けてA氏と一緒に取り組むことや、守秘義務を遵守することでA氏との信頼関係を崩さないように努めた。その結果、A氏は、悩みを吐露できる場ができ、素直な気持ちを表現することができるようになった。
Ⅴ:考察
A氏は、受傷により身体機能だけでなく、描いていた彼女との幸せな未来も喪失する可能性がある中で、家庭が築けるのか、彼女を幸せにできるのか、別れたほうがよいかなどの様々な苦悩を抱えていた。この苦悩は、生きる意味も含めた全人的苦悩ととらえられる。脊髄損傷受傷後のA氏にとって、彼女との結婚は「生きる希望」であり、別れは「絶望」であり、そのはざまで揺らいでいる状態ととらえられた。A氏の希望をつなぐためのカギのひとつが「性機能の維持」であり、それをA氏自身が確認することが「生きる希望」や「アイデンティティの確認」でもあったと考えられた。このような性の問題については急性期では表面化しにくいうえ、積極的に関わることは少ない。しかし、今回の振り返りにより、性衝動や性機能の有無の確認は、本能的な意味だけでなく、生きる希望を繋ぐための位置づけにもあったと考えられた。
青年期の脊髄損傷患者の性への悩みは、生きることやアイデンティティにも関連する大きな問題である。このような問題がとらえられ、関わりが持てたのは、看護師が患者のありのままを受け止め真摯に向き合う姿勢を維持したこと、また、同性としてA氏の希望は何なのかを探りながら応えたことなどで、本音を吐露できる関係が構築できたことが最大の要因と考える。このような問題を急性期からとらえ、患者を支えていく関わりが必要である。