第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD2] 緊急度・重症度判定の力を日常ケアに活かす

2019年10月4日(金) 15:20 〜 17:20 第3会場 (2F 中会議室201)

座長:横田 由佳(杏林大学医学部付属病院 看護師長), 芝田 里花(日本赤十字社和歌山医療センター)

[PD2-4] 看護師の急変対応能力向上に向けた取り組み 現状と今後の課題 日常ケアからのアセスメントトレーニング

喜瀬 裕美 (武蔵野赤十字病院 救急センター)

院内急変対応システム(Rapid Response System : RRS)とは、「院内で患者に対する有害事象を軽減するために、バイタルサインの重大な増悪を含む急激な病態変化を覚知し、迅速に対応するために策定された介入手段」である。RRSには4つのコンポーネントがあり、どのコンポーネントが欠けてもシステム運営が成り立たない。第一のコンポーネントに、患者のバイタルサインなどの異変に気づき、RRSを起動させる重要性が謳われている。RRSにおける看護師の役割として、この第一のコンポーネントである急変前兆候をキャッチして迅速に主治医とRRSを起動することが重要である。
 都内A病院では、「院内ホットライン」という院内急変発生時に救命科医師と看護師が駆けつける緊急コールシステムに加え、2015年より、患者の通常とは違う症状が確認されたら、看護師が主科医師もしくは救命科医師を要請できるRRSシステムが導入された。RRS導入に先駆けて、2011年には「患者急変予期・対応能力向上委員会」を設立し、看護師の急変予期能力向上と、それを医師に伝えるためのコミュニケーション能力向上を目指した研修が開始された。研修会では、急変や死に結び付く可能性のある危険な兆候であるキラーシンプトム(killer symptom)の基礎学習に加え、急変模擬患者を使ったシミュレーション研修を開催した。シミュレーション研修では、患者情報をABCDEにカテゴリー化し、どの部分に問題があるか、ないかを確認し緊急度を判定する仮説検証型思考のトレーニングを行なった。しかし、RRS要請された記録を後ろ向きに調査したところ、症状発生時のバイタルサイン測定や身体所見の確認が不十分なもの、バイタルサインの逸脱が確認されていてもRRS要請までに長時間要する症例が散見されている。これらの要因の一つとして、緊急度・重症度判定のためのバイタルサイン測定や、情報収集に関する必要性の理解が不足していると考えられた。一般病棟では、院内急変事例やRRS事例の体験機会が少ないため、臨床現場でシミュレーション研修が活かされにくく、緊急度・重症度判定のためのバイタルサイン測定や情報収集の必要性に関する認識が不十分であると考える。看護師が急変予知するためのアセスメント力は、日常行われるケアに潜むリスクと患者の訴え・身体所見・バイタルサインを関連付けて緊急度・重症度を判断するトレーニングを積み重ねることで培われていくものと考える。日々のケアで患者の訴えや身体所見・バイタルサインを評価する必要性を理解してこそ、患者の急変を早期に捉え、急変に至らせない看護も可能になるのではないか。
発表では、これまでの看護師の急変対応能力向上に向けた取り組みを振り返るとともに、日常ケアに緊急度判定の知識・技術を取り入れたアセスメントトレーニングの導入について述べる。