第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD4] 高齢社会に向けた病院前救急診療活動の現状と展望

2019年10月5日(土) 14:40 〜 16:30 第2会場 (2F コンベンションホールB)

座長:伊藤 敬介(高知医療センター), 福田 ひろみ(徳島赤十字病院 ER)

[PD4-5] 前橋赤十字病院における救急救命士の活動と今後の展望

大河原 由記 (前橋赤十字病院 研修管理課)

【はじめに】
 救急救命士制度は、平成3年に病院前救護体制の充実を図るために発足し、わが国の病院前救護体制の発展、救命率向上に
寄与している。また制度発足後から現在に至るまでに社会情勢やガイドライン改正等の背景から気管挿管やアドレナリン投与
が可能となった他、平成26年からは血糖値測定及びブドウ糖の投与、ショック状態の傷病者への心停止前輸液が認められる
ようになり救急救命士業務の更なる拡大は、これからも検討されていくものと思われる。
 更に救急救命士(以下、救命士)の業務拡大は医師・看護師の業務負担軽減への観点からも注目されており、院内救命士の
活躍に期待が寄せられつつある。しかしながら全国の医療機関へ勤務する救命士が、各施設内において通常業務として救命処
置等を行うことは現状では困難となっており、医師や看護師の業務負担を軽減するまでには至っていないと考える。
このような観点を踏まえ、前橋赤十字病院における院内救命士の現状および今後の展望について検討したので報告する。

【群馬県内における院内救急救命士の現状】
 群馬県内の3次医療機関における救命士の採用実績は4施設中2施設であるが、その業務形態に現在のところ共通性はな
く、前橋赤十字病院以外の機関では主としてER内での補助業務に加えてDr.カードライバーや同乗者としての出場を担っ
ている。
 前橋赤十字病院では2018年度末現在で救命士の有資格者数は10名であったが、内訳として制度発足当時に看護師に
与えられた受験資格により免許を取得した者が9名、救命士資格を持ち事務職採用で入職した者が1名となっており、救命
士が医療職者として勤務した実績はない。

【前橋赤十字病院の特色と救命士の採用】
 群馬県には自治体病院として県立病院や前橋市立病院が存在しないため、これらの役割の一部を前橋赤十字病院が担って
いる。そのため県との委託事業として教育研修の実施や教育用資器材の管理業務を行っており、これらの内容は年々増加の
一途であり病院の業務負担となっていた。このため、これらの業務を担当することを目的に2019年度に医療職として救
命士が採用され、以下の業務を行うこととなった。

【前橋赤十字病院での救急救命士業務の現状】
<Off-JT>
 ・研修管理(各種成人教育コースなどの事務局、運営補助業務)
 ・資器材管理(研修資器材管理)
 ・研修参加(指導スタッフ等)
<実活動>
 ・災害対応(日赤救護班:主事、DMAT:ロジ)

【前橋赤十字病院での救急救命士業務の展望(病院として今後更に期待するもの)】
<Off-JT>
 ・現役の救急救命士や救急隊員有資格者(消防職員全般)への生涯教育管理
 ・救急救命士養成施設の学生研修管理(病院実習等)
 ・研究、学会発表等
<実活動>
 ・ER内での業務検討(救急救命士法の改正も視野に入れ、診療報酬に関わる業務等)
 ・災害対応時における役割として消防機関と医療機関の連携強化並びに多職種(他機関)へのアプローチ強化を担う。
 ・プレホスピタルケアとして地域包括ケアへの関与やDr.カーでの出場(診療報酬に関わる活動の検討)

【結語】
 救命士の医療機関における実施業務の拡大には、高齢社会を向かえた病院前救急診療活動の拡充や医師、看護師の業務負
担軽減への観点など多方面からも期待が集まっており、今後の救急救命士法改正等にも注目が集まっている。
 こうした背景を認識し現時点から救命士の院内業務拡大を見据えた勤務体制や教育体制の検討を進めることが今後の病院
前救急診療活動にとって必要であると考える。